襲撃鎮圧、そして演説へ
そして更に数日が経った朝。
王の間にナルヴィが来た。そしてハンゾウも同時に
天井から来た。急報なのは分かったが、
まだ朝市も始まる前で大使たちの演説も
始まっていないはずだ。
「ナルヴィ入れ。ハンゾウもご苦労様」
ナルヴィは扉を開け、ハンゾウは俺の前に
傅いた。
「朝早く失礼致します我が王よ」
「火急の用向きだろうが、反乱でも起きたか」
「夜襲を掛けられました。ですが即座に鎮圧致しました」
「御意に御座います」
それを聞いて口を開けたまま俺は暫く停止した。
夜襲ねぇ……随分とまぁ勘違いが凄かったのねぇ。
「詳細を聞こう」
「はっ。賊が動いたのは夜半過ぎ。門兵を襲撃し
中に兵を入れて王の首を取らんと動いている者たちが
居るのを確認しました」
「門兵は無事か? 他の国民に被害は?」
「門兵は重症、他の国民に被害は微小ではありますが
御座います」
「治療に全力をと髭お爺先生たちに伝えてくれ。
家族には保障を必ず俺の名でするから安静に、そして
お大事にと伝えてくれ。また微小でも被害は被害。
補填を頼む」
「心得ました。早速使者を向かわせます」
「規模はどれ位だ? 協力者は?」
「規模は二十人程、協力者も同等です。
戦闘員としてみれば十人程度です」
「それだけか?」
「それが三グループです」
「なるほど……。してどの様に鎮圧したのか」
ノウセスウルシカアシンバの三人によって
鎮圧したようだ。ただしノウセスに関して
問題があるようで、ナルヴィは直接俺に
問いただして欲しいと言って来た。
というのはどうも事前に知っていてそれを利用し
誘き出し、一網打尽にしたようだ。
「今来ているのか?」
「はい。控えております」
「なら呼んでくれ」
ノウセスは防具も付けず俺の手前まで来て
傅く。そしてその後ろに控えている三名から
書類をナルヴィ経由で渡される。それには
今回の夜襲に関しての詳細な報告が載っていた。
流石文官だけあって簡潔だった。
要するに事前に大使から相談を受け、
個別に潰すより一網打尽にすべく
ウルシカアシンバと謀ったとの事。
ただ裏口を勧めたものの上手くいかず、
正面から夜襲を掛けられた為門兵が負傷し、
騒ぎが国民に知れて被害が出た事の
謝罪が記されていた。
「ご苦労であった。それで大使たちは?」
「捕らえて各組合の牢屋に個別に閉じ込めております」
「そうか。更にそこで協力者が現れ逃がして居れば尚良いな」
「陛下にご指示を仰がず独断で進めた事、
そして処置した事、更に陛下の臣下である門兵を
傷付け、あまつさえ国民の方々に被害を及ぼしました事、
お詫びを申し上げるだけでは足りず、
いかなる処分を申し付けられても覚悟しております」
難しい話しだよなぁ。正直デモレベルは
やるかもしれないと思っていたし、国民側が
大使たちを襲撃しないか心配はしていた。
が、まさか夜襲を大使たちが掛けてこようとは……。
大使がなんだか理解していないのか、
それとも本国と計って襲撃をしたのか。
まぁ両方だろうなぁ。
この国を見て推し量れないようでは、
交渉の余地は微塵も無い。問題はそこじゃないな。
恐らくナルヴィの機嫌が悪いのも、
独断で敵を引き入れた事、三人で謀った事について
だろう。独断専行はイシズエの十八番な気がしたが。
ただ上手くやってくれた。俺がその立場だとしても、
後顧の憂いを断つために確実な手を打つために
そうしただろう。
「そうさな……ナルヴィ、国民の皆に知らせを出してくれ。
俺から皆に報告があると。それと開発部門に
音管を開放するよう伝えてくれ」
ナルヴィは頷き外へ出る。
「取り合えずノウセスの処分はそこで発表しよう。
控えていてくれ」
「はっ」
俺は席を立つと、相棒を腰と背中に差し
王の間を出る。久し振りに正面から出た気がする。
イシズエにフェメニヤさん、
ユズヲノさんにハヲノとエメさん。下へ降りると
恵理とリムンが階段の両脇に立っていて、
俺を挟むようにして一緒に城の扉前に行く。
リムンがマントを恵理に渡し、恵理はそれを俺に
掛けてくれる。更に恵理とリムンもマントを羽織った。
扉は開かれ開発部門の者たちが待ち構えていた。
そして設置してくれた階段から城壁へと上る。
眼下に広がる城下町には、国民の皆の顔が見えた。
俺の前にはメガホンを逆さにした状態の筒があり、
そこから鉄の管が街の至るところに伸びている。
俺の声がそんなに大きくないのもあるが、
国民も増えたし出来れば直接声で伝えたいのもあって、
開発部門に依頼し作ってもらった。
同じ位置からでは振動が届きにくかったので、
高いところから下へとやるとマシになった。
勿論完璧とまでは行かないが、無いより良い。
「国民の皆、久し振りだ。一人ひとりの顔を見れば、
懐かしくもあり、また今は勇ましくも見える」
俺は皆の顔を良く見ながら語りかけるように言う。
何処か顔は皆緊張していた。
「俺はここ数日、王の間に篭り考えた。
この国の発展は皆の頑張りに寄るものだ。
この国に生き続けた者たちが、俺に協力してくれた
お陰だ。勿論他の土地より豊穣の恩恵を受けたのもある。
その負い目もあって皆他国の者にも冷たくしなかった。
それを知っていればこそ、この度の大使たちの提案に
多少譲歩する事が、皆の心情を、負い目を癒し
未来に向くものかと思い悩んだ」
俺がそう言うと、皆は頷きつつも
譲歩の部分に対し、必要ないとの声が上がり
騒がしくなった。




