防衛訓練とその終焉に
ただ暫くは静観するつもりでいる。
下手に動けば本当の所が分からない。
個人的には得るものが大きいと
考えたからこそ打った手だ。
こういう事もあろうかと、
お小遣いで溜め込んだ食料や、
非常食の類もある。
そして陽が開ける。
俺は床に敷いた布団から起き上がり、
非常食を食べると、それまで考えていた事を
紙に書いて纏めたりし始める。
色々察したのか、ナルヴィたちは来ない。
唯一イシズエが何度も来たのは鬱陶しかったが、
その都度芝居を打っておいた。
一人くらい臣下が真面目に混乱してくれないと。
それから更に次の日。
城下町を見ているが、割と騒がしい。
サワドベからの報告で、他国のいかつい人間が
入国しようとしたので拒否したところ、
一悶着あったらしい。ただしこれは直ぐに制圧。
鍛えていた成果を出して、死傷者ゼロけが人は
相手方のみ。これを国民は勿論見ていた。
更には大使たちが演説。
「この国が発展したのは我々の国があったれば
こそである! それまでもそしてこれまでも
我々の国や人が援助して協力してやったのも
忘れ、この国のみが繁栄するなど卑怯卑劣、
人にも劣ると言わざるを得ない!
コウ王はそこを考えている。
お前たち国民が同意すれば今までより
少し劣るかもしれないが、待遇も環境も
ある程度は認知してやると、我々の王は仰せだ!
お前たちが決断するがいい」
とこれはウルシカの国の大使だが、
ノウセスやアシンバの国の大使も似たような事を
街頭で演説している。
「俺は厚顔無恥ってのを生きてきて初めて目の前で
見たわ。自分たちを振り返らず人の所為。
それを国単位でやるとか凄いな」
数日後、気分が悪い状態を取り合えずイシズエ以外の
重臣に対し解いて、こっそり会議している。
で、こっそり偵察に出たときにみた、大使たちの
発言をニヤニヤしながら言う。
が、誰も笑ってくれない。寧ろガチギレである。
俺に怒られても困るんだーが。
「状況的には最悪です。抑えるべき兵士たちの
ストレスが凄まじく」
「そう思うよ。で、国民はどうかな」
「国民は言うに及ばずです。最初は何を馬鹿なと
取り合わなかったようですが、執拗で大きな声の
演説に不快感を顕にしているようです。
我らが組織した其々の国の組合が用意した、
その宿からも追い出されました」
「それは身の危険から追い出しただけじゃないか?」
俺の一言にノウセスウルシカアシンバは
首を横に振った。ここには重臣以外にも
この国出身の家臣も居た。俺は彼らが思っているだろう
事を口にした。そしてこれはこの国出身者の
今一番怒っている事でもある。
「さてさて……」
「陛下、妻たちの間でもこの度の事、
不満と怒りで渦巻いております」
「まだ駄目かな。取り合えずもう暫く静観で」
そうまだ足りない。演説から一日しか
経っていないにしては割と根深い問題として、
以前からこの国の国民にはあったと思う。
が、足りない。この国で糧を得て生活している
他国出身者の行動が、ただ宿を追い出された位では
この国の民の怒りには届かない。
「そう、簡単に言えばこの国出身者以外の
危機感が足りない。個人的には仕事に対して
彼らの生き死にがあるからそこに関しては
信用はしているが、臣下以外信頼は一切していない。
共通の怒りになるまで静観」
「ですがこのままですと、弱い者たちに被害が」
「そこは皆で統率をしてもらいたい。
これは攻められた時の防衛訓練でもあり、
俺が戦で出た時の、万一クーデターが起きた際の
予行演習でもある。悪いがそこも見ているから
頑張って欲しい」
そう俺が告げると、皆怒りの顔から顔を引き締めた。
俺がイシズエ以外の臣下を集めたのはここに狙いが
あった。あのイシズエすら降格された。今回俺が
指揮を見ていると宣言した事によって、
採点されると分かったのだ。
更に言えば反逆を企てられる可能性がある、
そしてそれに対する対策をするとも宣言した。
鉄壁ではないにしても、事前に告知しそれを
最小限に抑える方法は色々しておきたい。
更に数日が経ち。
演説をする大使たちは食うも食わず野宿で
未だに頑張っている。勿論俺との面会、
というより回答を早くしろと臣下たちに
連日怒鳴っているが、不調を理由に
俺は会っていないし答えても居ない。
彼らは面白いように次のフェーズに
移行していた。ついに俺の批判を始めた。
「お前たちの王は無礼である!
前王から簒奪し国を我が物にしたばかりか、
我らを蔑ろにするなど不遜極まれり!
我らに対して厚遇して然るべき所を
野宿させるなど、この国の王は恥を知らん!」
と気炎を上げていた。実に面白い。
これに輪を掛けて面白いのは、
其々の国の組合も最初交渉してはどうかと
寝惚けた事を言っていたが、今日アシンバたち
に前言撤回すると告げてきた。
最初身の危険を感じて大使たちを無視、
またはけんもほろろにかわしていたものの、
俺を批判した事で一気に火が付いた様だ。
「王、そろそろ重い腰を上げては如何でしょうか」
ナルヴィが珍しく俺に対して優しく促した。
それが皆に危険である事をより深く伝える事になる。
「駄目だな。まだ具合が悪い」
「このままでは内乱が起きてしまいます。
そうなれば付け入る隙が生まれてしまうのでは」
「そうかな。この国の民であれば、親衛隊も
軍も鎮圧に手間取る事はないだろう。
なんだったら俺が出るし」
とは思ってないが、その言葉に他国出身の
臣下はざわつく。当然だろう。俺は各国の組合を
作ったのはその統率を見る為だ。抑えきれない
というのであれば意味が無い。恩恵をこうむるばかりで
動かないのであれば存在を認めるのもどうかと思う。
「敢えて言うのもなんだが。組合を何故作ったのか、
改めて考えてくれ。俺が出るような事になれば、
それはもう意味を成していない。違うか?
ノウセスウルシカアシンバ」
「……御意で御座います」
三人と他国出身者は俯く。
この国としては人手は欲しいが、寄生は要らない。
発展してきた元々は、この国の民が頑張ったものだ。
一番しんどいときに頑張ったのがあってこその今だ。
それに気付かないうちは俺が事態を収拾させる事はない。
「言葉や態度、行動に出す事が時には一番大事だ。
それ無くして先は無い。以上解散」
いつに無く厳しい態度を示す俺に対して、
見た感じ涙目っぽい他国の臣下たち。
そろそろか。俺も城に篭らず街頭を見張ろう。
いざが起こった時に割って入れるように。




