隠密の里、真の影
その後バルコニーでハンゾウから
里の経営状態の報告を受ける。
元々自らを律し清貧を旨としていた
人達が多かったので、信頼出来ると考え
個人的に頼んで紙幣の製作の一部を里で行っている。
また里の人たちと一緒に、先立って
大地の回復も行った。
イシズエより前の代から管轄地域として、
この里の周りの植林は守られていた。
苦しいときも手をつけずに、里の人達が
守っていたものの、それでも少しずつ
減って行ったようだ。
ユグさんとも話し合いつつ、海で得た
クラゲのような生き物を細かくして
地面に撒いてみた。すると暫くしてから
痩せこけていた土地に、虫が発生し雑草の
ようなものが生えてきていた。
うちの国周辺以外で実は始めての例だった。
オンルリオも交えて相談し、
親衛隊のアインスとツヴァイにも警護を
依頼。石材で荒れた土地の部分に
造幣所を建設した。
この事から里の仕事を求める人も満たされ、
更に年配の人たちにも栽培などで
協力を得ることにより、ほぼ全ての人に
雇用を生み出した。
そうなると里も活気付く。
腹も満たされ仕事もあってとなれば、
それまでの生活に対する疑問も
持ち上がってくる。
「しかしすんなり元の長を受け入れると
思っていたのに意外だな」
「そうでしょうか……清貧である事は
別に良い事ではありません。特に子供にとっては。
誰しもが思っていたことです。そうでなければ
良いと。そしてそんな時に陛下が現れ来てくださった。
その事が何より大きいかと」
「過去の象徴と明るい未来……か」
「誰も滅びは望んでおりませんから」
「それに里の周りや近くの雑木林。
あれは素晴らしい。あれのお陰で大分再生が
早まった」
「あれは我らの支えの一つでございます」
「あまり里から人を離れさせたくは無いが、
大地復興の為には何れ協力を求めることになる。
出来れば移動手段などの短縮や、
城下にいる者たちにも多く講演してもらって
里のみに負担を掛けずにしよう」
「有難いお言葉です。なれど我らは
陛下のお役に立ちたく」
「見えぬ影から見える影、か」
「はい。影であることに誇りはありますが、
だからとて認識されない影の存在意義に
疑問を持つ者も多いのが現実です」
「目立たなくても見えるだけ、知られているだけ
でも違いがあるな。それにハンゾウと
話したような体制にした事で、真の影はより見えなくなる」
「はい。そしてその影に永遠に沈むことも無くなる。
卑屈さのみでは生きられません故」
そう隠密を旨とする彼らは目立たぬ存在。
あの里も仕掛けや魔術のようなものを用いて
秘匿されていた場所だ。ただそこに篭っているだけでは
生きていけないし、その活動を危険視もされる。
分かるものだけに分かっていては、救援も呼べず。
一人の相手のみに頼って裏切られれば全滅してしまう。
結果奴隷のような存在になってしまう。
そこで里全員の今まで続けてきた鍛錬は
これ以降も続けていき、外部にも公開し観光のような
側面も持たせつつ、里の者以外の居住に関しては
許可しない方針を取った。
更にはハンゾウが目を掛けたものを選び抜いて
役職を与え、深い技術の習得と作戦遂行を行ってもらう。
これに関しては口外禁止にしている。
「そう考えるとまぁあの長の居た里とは最早
何もかもが違うな」
「はい。陛下が線引きをし、里の者に心を砕いて
くださったからこそです。故に申しました。
陛下と争うことなどありませんと。
我らは陛下に光を見た。またその光を支えたいとも。
我らは仕える喜びを知る者どもです。
どうか末永くお仕え致したく、また御許し頂けます様」
そう話しているとナルヴィが難しい顔をしている。
まぁ俺のやる事を全て話しているが、これに関しては
事後だ。ナルヴィからすれば、里の成長を恐れる
側面もあるだろうが、この城も負けてはいない。
日々進化しているのだ。競争相手となってくれれば
それに越したことは無い。何しろそれが
他の国に対しての攻撃にもなる。
対外的に見れば俺の城近く以外で初めて
蘇った場所でもあり、俺に組した場所だ。
俺と組んだ事で栄え、更には進化し交流も物資も行き来
して二つの場所で成立したような形になれば……。
ウルシカのフロストなどが黙って見ているようには
とても思えない。恐らく何かしら手を打ってくるはずだ。
まぁウルシカという手を打ったのに逆に取られて
慌てて入るだろうが。
「最初の任務の連携ご苦労様。
ウルシカからもお礼をしたいと言っていたよ」
ロキとハンゾウに顔を其々見ながらいった。
ロキが指揮した隠密部隊と、ハンゾウの里の厳選した
隠密部隊が連携してウルシカのフロストに進入。
置いてきた家族を救出し、ウルシカのフロストには
ウルシカの身内は一人も居ない状況にした。
それを敵対行為として攻めて来てもかまわないが、
そんな事を大々的に発表すれば、他の国から侮られる。
向こうとしては取引材料としたかっただろうが、
そんなものはこちらも読めている。
ウルシカは捨て置いて構わないと言うが、
そんな訳はないし影響が大きい。
予行演習としてはレベルが高いが、やってもらった。
最悪争う事も辞さない覚悟があると告げて。
ただしその後ウルシカに工作してもらい、
ウルシカのフロストとパイプを作った。
公平な取引をする為の必要な措置として、
小麦や宝石なども付けて渡すと、表向きはすんなり
溜飲を下げた。
「そろそろ誰か動いてもよさそうだけどね」
「そうだな。三つ全ての国が初手を失敗している。
慎重になるのは良いが、動かなければジリ貧だろう。
かといってみだりに動けば思う壺、とも考えている。
そこで三人に聞きたい。餌を撒くか釣り針に掛けるか
したいと思う」




