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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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裁定

「私は彼らと面識があります故」

「面識があるから助太刀すると言われるのか?」


 俯いたまま答えない。色々挽回したいという

気持ちが焦り過ぎたのだろう。事ある毎に評価したり、

副官としての仕事以外に余計な気を回さないよう、

配慮もした。ハードルも段階的にしていたし、

その先のゴールも示していた。だが本人の

自己評価の高さと現実が乖離していたように思う。

出来れば時間を掛けてそれを気付かせて

やりたかったが、その余裕が無い。

 前にもイシズエに言ったが、

結局のところこの国だけが豊かなまま、

徐々に研究開発しているが、救うまでには

至っていない。事業的には大規模で、

出来ればこの大陸全員でやらなければ

ならない。重臣達はそれに理解を示してくれ、

同じゴールに向け俺がお願いした役職を

真っ直ぐ走ってくれている。

 本来なら黒尽くめたちはその遅さを

問われるべき立場だ。だがそうはなっていない

その事に何処か居心地が悪いはずだ。

こっちからすればロキに頼んでこの国の

諜報に興味がある、または独自に鍛えたり

研究していたものを連れて、黒尽くめを

監視しつつ情報を俺にくれていたのだから、

問うまでもないのだ。

 そういう観点から言えば、独自の諜報部隊の

実践練習にはなったので役には立った。

ただしそれだけだ。


 俺がそう考えている間に彼らの報告が

続いていた。正直ロキもナルヴィも聞いていない。

聞くべき所が何一つ無いからだ。

イシズエより前からのやり方なのか知らないが、

縁を頼って物を武器に情報を探り、忍び込んで盗み見る

という流れだ。

それはまだ良いが、誰が精査し選定したのか。

選定して何故それを即座にこちらに送らないのか。

まぁ流れからして分かりやすいが、それの仲立ちが

イシズエだった。それをしてくれと頼んだ訳ではない。


 黒尽くめの里に先に介入したのは、

本当にただの俺の温情だった。

ナルヴィは俺が何もせずこの日を迎えたなら、

恐らく黒尽くめの里を無断に近い形で

全滅させていただろう。

恨みは自分が買うのを良しとして。

それも個人的には先々を見据えれば俺に良くは無い。

結局は俺の治世で行われた虐殺に他ならないからだ。


 ナルヴィは涼しい顔をして今は決められたように

怒ってはいるが、腸が煮えくり返る思いで

目が割りとガチめにイシズエを見ていた。

名馬が駄馬にとはナルヴィの助言だが、

それはイシズエのみに当るものではない。

ナルヴィの忠誠は俺に対して俺にのみ真っ直ぐで

あり、もっと言えば俺以外は滅びたところで

どうでも良い位に思ってるような気がする。

なので俺の邪魔をちょいちょいしている

イシズエに対して纏わり付くハエレベルに

思っているのが、偶にある二人の会話でも分かる。

寧ろそういった面がイシズエを追い詰めた気さえしている。

 気の毒に思う面もあり、ナルヴィに虐殺に

手を染めさせない為にも里に先行投資した。

正直得るものが大きすぎたのは嬉しい誤算。

 取りあえずそろそろ前に立って話すことにしよう。

このまま行くと重臣に亀裂が走る。


「もう良い」

「はっ……」

「もう良い黒尽くめの長。言わなくても分かっているし、

言いたいだろうが我慢しているのも良く分かる。

よってここで沙汰を下す」


 俺は一息吐いて天井を見上げた後、

視線を前に戻す。


「黒尽くめの長、そして減りはしたが当初諜報に

出向いた者達の任を解く。またイシズエは降格とする」

「王、それはあまりにも温情が過ぎるかと」

「良い。黒尽くめの長とその周りのもののみが里へ

寄ったにも関わらずここに来たということは、

もう里が前の里とは違うものだと、今の長と互いに

認識したからだと思う。要は里から解任された訳だ。

そうだなハンゾウ」


 俺が声を掛けると、煙を纏って場に現れる

黒尽くめの装束に鉢がねを付け、頬には火傷の痕がある

渋めのおじさんが現れる。

彼は長が旅立った後、里を纏めていた者だ。

グオンさんから紹介を受けた、里随一の腕を持つ者。

長は自分の挽回の為に自分から諜報に出たのだろうが、

里にはそれ以上の者が居た。それだけでもマイナスは

でかい。俺は里随一と一日掛けて己の技術を見せあい、

説得に成功した、というか折れてもらった。

その際に名前が欲しいとまた言われたので、

安直ではあるが、あざなとしてならと

かの有名な忍者の名前を言ってみた。

ハンゾウもそれ以来本名を教えてくれない。困っている。


「はい。ひもじくも誇りを持って過して参りましたが、

陛下の御許でひもじくなく誇りを持って国の一員として

里をあげて陛下に信を捧げお使えする事を、

皆進んで成しております。

今更何の故あって陛下と争う事がありましょう」

「長、そういう事だ。貴方のした事は死罪に値する。

だがハンゾウよりそれまでの功績に対しての温情をと

言われているし、申し訳ないがユズヲノさんは

医療の要の一人。またハヲノはエメさんの大事な友達。

これら全てを加味し、長の座を交代してもらう事のみで

処分は終わりとする。以上を持って解散」


 この言葉に静まり返る一同。

あれまぁ皆さん全員言いたい事がありそうで困るわぁ。


「聞こえないのか? 解散だ」

「解散せよ」


 ナルヴィも言うが、当のナルヴィも動かない。

ていうか誰一人動かない。ちょっとー家臣ー。


「僭越ながら」

「僭越だ。控えよ」

「王、是非とも私の話を聞いて頂きたく」

「ならん。両成敗なのがまだ分からんのか。

フェメニヤさんたちに感謝するが良い」

「王、我らは我らで貴方との約定を果たそうと」

「なら俺に直接伝令すべきであった。

姑息な手段と断じるのは惨い気もするが、

要らぬ手間を掛けたのは失策だ」

「コウ王、彼らを生かして返すのかい?」

「処罰は長交代のみ。俺の中ではそれ以上でも

それ以下でもない」

「……そうかい」

「聞く事が無いなら以上だ。

言いたい事があるとしても、王としての決定に

不服があるのであれば国を出るが良い。

俺には義務もあるが権利もある。

それはこの国に属する者達も大きさの違いはあれど同じ。

気に入らなければ出て行くが良い。

俺はそれを追撃したりはしない。

ただし二度と敷居を跨ぐ事は許さんと思ってくれ。

以上だ」


 皆立たないので俺が立つ事にした。

思いっきり強引に幕を引いたが、

ナルヴィやロキと言った皆から見れば古参や

イシズエやハンゾウ、ユズヲノさんなどの

新参どちらにも肩入れしない姿勢を

多くいる前で示さなければならない。

王が偏重しすぎれば、バランスを崩す。

ぶれない軸がある事が分からないと

国民も困る。そう言った線を見せる必要が

あると感じたから脚本に無い事を今回はしてみた。

 正直イシズエと黒尽くめが不満を持って

反逆をしてくるかもしれない。それは仕方ない。

これ以上の温情はここでは贔屓になる。

悪い言い方をすれば、現状に不満がある者達が

そこへ集中すれば見えないものが見えると言う面では

良いかもしれないともこっそり思っていた。

これから戦が始まる。その前に表に出しておきたい

面もある。反対意見も許容出来る社会は勿論必要だ。

ただ現状出やすいかと聞かれればそうではないと思う。

イシズエの立場が大変になるだろうが、

反対の旗頭が分かりやすくなればやりようもある。

明確な罰を与えるよりしんどいかもしれない。

イシズエに目配せし、外にいるフェメニヤさんにも

視線を送った。

 俺の仕草を見ていたロキとナルヴィは察したのか、

俺の前を歩き、親衛隊にも下がるよう命じた。

そしてハンゾウはそのまま俺の横について

王の間を後にする。

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