対覇王戦開始!
コウはイーリスとアリスを連れて、王座が見える場所へと移動した。
ついに始まる対覇王戦。
俺とイーリス、アリスの三人は姫の部屋を通り抜け、
王座の間を覗ける窓のある場所に辿り着く。
「奇襲するの?」
アリスは壁の横でしゃがんで待機した俺に尋ねる。
答えはイエスだ。
正攻法で仕掛けて行こうと、奇襲をしようと
あまり変わりは無いかもしれないが、
何もしないよりはマシだと踏んだ。
「小細工をするより、仕掛けて
こっちのペースにするわけね」
「そうだな。乱戦というのが一番面倒だ。
ごちゃごちゃされると、例えレベルが高くても、
対処に困りレベルが下の相手にも手こずる」
これはネトゲで学んだ知識だが、
お行儀よくよーいドンで始めれば
強い敵が弱い味方を駆逐していき、
立て直しが利かない。
それよりも奇襲で攻めれば相手に考える隙を与えず、
こちらのペースで塊で押し切る事が出来る。
「二人とも、良いか?」
俺が二人の顔を見る。
黙って頷くイーリスとアリス。
準備は万端らしい。
ならば!
「いくぞ!」
俺は窓へ飛び込み眼下を確認する。
予想通り王座に座っていた。
俺は鞘から出ていた黒隕剣を手に取ると、
黒隕剣は合わせて形態を変化させてくれた。
鍔から三つ又に剣身は分かれ、光の刃を形成した。
「づぁ!」
黒隕剣を振り下ろすも、
何か結界のようなもので防がれる。
「はぁっ!」
「でやあ!」
イーリスとアリスも続けて攻撃を加えて、
結界のようなものが壊れる。
「何?」
王は少し驚いた。
これを見逃す手は無い。
俺は深紅の髪の青年に斬撃を加える。
イーリスとアリスと連携し、息を吐く暇すら与えずに
攻め続けた。
「おのれっ!」
王は堪らず手で俺達を払いのけようとするが、
俺はしゃがみ、イーリスとアリスは距離を取る。
標的がバラけた事で王は混乱する。
俺はしゃがんだ状態から勢いを付けて、
立ちあがりながら薙ぐ。
「ぐぉっ……!?」
王は短い悲鳴を上げながら胸に出来た剣傷を見て驚く。
流れているのは人の血では無いもの。
俺の中にある、人に対して攻撃すると言う
恐怖みたいなものが無くなり、斬撃を休まず加える。
「我が血を糧とし敵を締めあげん!魔姫結界!」
「悪魔の藻」
アリスとイーリスの魔術により、
王は身動きを封じられた。
俺はそれを逃さない。
「うああああっ!」
全ての力を込めた一撃を放つべく振りかぶり、
王に叩きつける。
「ぐあああっ!?」
王は一刀両断され、左右に分かれて倒れる。
俺は肩で粗く息をしつつも、何かおかしいという
感覚が拭えないでいた。
「王……、いつまでふざけているつもりだ?」
俺は息を整えつつも構えながら問いかける。
恐らくこちらの腕試しのつもりでやられた
振りをしているだけだ。
「流石は我と同格と認めた男だ。素晴らしい。
完璧に近いと言える。適材適所の配置に奇襲、
そして絶え間ない攻撃。
どれも一級品以上の価値がある!」
王は分かれながらも口を動かしつつ、そう言った。
そして煙になると、一カ所に集まり
元の状態に戻る。
「……欺かれた」
「いや、ダメージは与えていたぞ?
流石に我も無敵では無い。外で雑魚と
戯れていた時とは比べ物にならないほどの
ダメージを受けた。
そしてこの方法は、イーリス、
お前が逃げた時の方法を
ヒントにして得たものだ」
王はダメージを受けたと言いつつも平然として
天井に手を掲げると、大きな黒い剣が出現し手に取った。
「通常の悪役ならば、勇者の奇襲を
なじるものかもしれんが、我はせん。
元々差があったのだ。奇襲をせずに堂々と
正面から来れば、称賛はしようが
退屈極まりない相手だと思っただろう」
「お眼鏡にかなったようで光栄ですな」
「そうだ。喜ぶが良い。やはりお前は我の見立て通り、
一番強い。我を倒しうるのはお前だと確信した。
だからこそ、我も本気で戦う事にしよう」
そう王は言い終わると、一瞬姿が消えた。
しかし俺の眼はそれを捉えた。
低い体勢から俺の胴を斬り裂かんと、
薙いで来た。
あっさりと間合いを詰められ、
今度はこちらが防戦一方だ。
ビッドでさえ鈍りそうなほど大きく、
黒い禍々しい剣を軽々と振るい、
俺に斬撃を与えてくる。
まともに受ければ腕を持っていかれると思い、
インパクトの瞬間に巧く流した。
と言ってもそう都合良く行く訳が無い。
最初はモロに衝撃を受けてしまい、腕がしびれた。
だが徐々にその太刀筋が見切れて捌けてくる。
しびれていたのが良かったのか、
余計な力を入れようも無く
自然な流れで捌けた。
「ふはははははっ!流石勇者!
この我がお前を斬ろうと思っても斬れぬぞ!これは良い!」
余裕すぎるだろコイツ。
流石この国のボスって感じだ。
「俺は」
「ん?」
「俺は、勇者なんて御大層なもんじゃねぇ!」
隙を突いて斬り返すと、王は防御したが
王座まで押し返した。
「ならなんだ」
そう言われて俺は一瞬考え込む。
そうだな。
御大層な名前は必要ない。
「無職で引きこもりのおっさんだ!」
俺は大声で王に告げる。
嘘偽りのない俺の元々の状態だ。
勇者などとはかけ離れている。
これまでの道筋を思えば、
他の言い方もあるかもしれない。
だけどこんな大一番だからこそ、
どうしようもない自分をさらけ出し、
体裁も何も捨てて挑む為に、そう名乗った。
堂々と恥じることなく言うのが凄いとは思わない。
認めた上で足掻く事を、
自分が与えられた力で皆を救いたい、
その目的の為に体裁も何もかも捨て去る事を決めたおっさん。
口火を切った覇王戦の行方や如何に!?