黄昏へ向けて
その後は特に何事もなく朝を迎える。
朝は皆で食事をした後、小麦の収穫に出る。
但し兵士たちは武装している。
俺の指示で女性や子供に対し、
周りを固めている。恵理との話の中で
女性の警護隊を新設する話が出て
人員を割いて編成したが、
急増では逆に現場で危ないので、
今回は得物を持たせていたない。
「開門!」
俺の声で門が開く。皆に緊張が走る。
門兵は俺に外に人が居ると、
指でサインを出していた。
そういう姿を見ると、戦う城としての
機能が出来ていると実感する。
「サワドベ。お前が今日から門兵長だ。
以後サインなどの取り決めを行って、
都度オンルリオやイシズエと連携を取るように」
俺は上に向かってそう告げる。
なにやら驚いて落ちそうになったが、
敬礼して頭を下げた。この一月、
門からの報告は彼からの報告が多い。
最初は無記名というか門兵全てからの
ようになっていたが、こっそり動いてみると、
サワドベが皆の間で意見を取りつつ自分の意見を
伝え纏めていたのが分かった。
こっそり他の兵に聞いても答えは同じ。
門兵に必要なのは力の強さでも
体の大きさでもない。
判断力の高さと忍耐強さ。そして善悪を
見定める目と自らを律し続けられる誠実さ。
彼は戦場で敵を倒すには少し優し過ぎる。
だからこそ、彼にとって門兵という仕事は
天職のように思っているのだと思う。
練兵中よりも門兵として動いているほうが
より的確に動き広く物を見れているし、
この一月近く彼の動きを見てきたが
見て分かる位だからそれはそれで凄い事だ。
国の重要な門を安心して任せられる人材。
得がたい人物を見つけられた事で、
少しホッとしてしまう。勿論これからの
動きによっては分からないが、今のところ
彼の動きに期待したい。
「やあおはよう」
橋を渡った先には黒尽くめの者たちは居ない。
変わりに着物を着た女性と子供が居た。
地面に膝を付き頭を下げている。
ただ長の嫁と子供にしては着る物が
派手ではない。ナルヴィもそれに気付いて
先に行こうとしたが、手で静止する。
「名を聞こう」
「はい、私めはユズヲノ。こちらは娘のハヲノ
と申します。長である夫の命により、
夫の帰還までお世話になります」
「分かった。恵理、リムン、二人を頼む。
特にあの娘はまだ朝も早いからゆっくりさせて
やってくれ」
「オッケー。奥さんはどうする?」
「ここでの役割をフェメニヤさんと相談して
決めてくれ。警護は女性の警護隊から
信用できるものを出して付けてくれ」
「ラジャー」
「任せて欲しいだのよ!」
恵理とリムンが先に行こうとすると、
二人大きな女性が二人を護る様に
傍についた。
「最初は警護から動きを慣れていくのが
宜しいと夫や皆さんと話しておりまして」
「構わない。フェメニヤさんと恵理、リムンが
台所のリーダーだ。大変だろうが女性陣の
指揮は任せる。これから領土が広がれば、
二人にはここを任せる事になる。
ここは我が軍の最終防衛ライン。
強固な城、人の場であるよう仕切ってくれ」
俺がそう前を身ながら言うと、
イシズエとフェメニヤさんが前に出てきて
頭を下げる。仰々しいなぁ。
その後いつも通りの小麦の収穫に処理を
行い、朝飯は先に食べたので職務に移る。
「王、宜しいので?」
ナルヴィが声を掛けてきた。
宜しいのかというのは勿論例の二人に
任せる発言だろう。
「他に適任は居ないだろう。俺の元でなら
よく動き暴走しないと分かれば、
他の人たちも納得するだろう」
「今は王の治世に問題も文句も少ないですからな。
ですが例の黒尽くめの一件も然り、
あれはともすれば呂奉先かもしれませんぞ?」
「一騎当千の武将にして裏切りの暗殺者、呂奉先か。
確かに。勿論ここに置いて行く者も居るし、
何より個人的には過去に冷遇されていた
人物の取り立ても行っていく。
更に言えばこの下には俺が同盟を結んだ
ユグさんが居る。いざとなれば豊穣の土地が変わる。
望みとしてはイニシアチブをとられるような、
そういう場面で反旗を翻されても困るから、
早めにそういう芽には栄養を与えて刈り取らないと」
「なるほどね。良い策かもしれない」
ロキが空間を割って出てきた。
「久し振りだな。元気だったか?」
「勿論。色々個人的にやる事があってね。
それに外から見た方が良い事もある」
「その口ぶりだと収穫があったようだな」
「そうだね。取りあえず地固めが済んだら、
沿岸周りから攻めていくと良い。
それと食糧事情も中々複雑だ。
他の三国は当然ギリギリの状態になっている。
ひょっとすると同盟を結びたいと
願い出てくるかもしれないよ」
「遅いくらいだな」
「こっちの安定を見ているんだろうね。
おいそれと同盟を結べないし。
一月様子を見て、君の統治が評価されたんだよ」
「俺の統治も何も、イシズエが出来てなかったところを
ただしているだけのような気もするけどな」
「それが出来ないからここはヤバかったんだ。
誰でも出来たら苦労しないよ。
あ、それと分かってると思うけど、
ここが統一されて大地が蘇ればオーディンは出てくるよ」
「……良かった。その為にこんな事をしてるんだからな」
「いよいよ直接対決か」
「しかしまともな勝負になるのかな」
「どういうことだい?」
「いやもしかすると見た目的に俺が上手く
渡っているのを見て、怒り心頭で襲ってくるかもしれない」
「ああ、それは有り得る。だけどそれは僕らのほうで
折込済みだ。彼が大幅にルールを変えたせいで、
彼が望む形になったお陰でこんな事になってるんだ。
それに対するカウンターは当然ある」
「……正しきルールかぁ……」
何を持って正しいのか。
オーディンは元々そういう名前ではない。
役割として彼が望み就いたものだ。
それは彼の最大の皮肉かもしれない。
神は正しくそしてどんな人にも優しい訳では
ないのだから。
「今はオーディン一極でしかも手を出しては
いけないところまで突っ込んだ。
それを後々どうしていくかは終わった後に
考えれば良いよ。君自身の身の振り方も
あるだろうし」
「そうだったな……」




