新たなる者
腹は立つものの、取りあえず書類に目を通してみた。
これも一応である。何しろこのナルヴィが
俺と会っても良いと思った者たちだ。
その書面には面接での内容が書き記されていたが、
苦労が伺える。会ったら一言労おうと思った。
「では解散した後一人ずつこちらに通します」
「そうしてくれ。皆、午後も宜しくお願いします」
皆で席を立ち宜しくお願いしますと
声を出した後、解散する。俺はまた椅子に座り、
ナルヴィは俺の横に立つ。
「座ってれば良いのに」
「そうも行きません。一人目を呼んでくれ」
扉はあけっぱにしてあるが、
親衛隊が二人、毎日交代で立っている。
その二人にナルヴィが声を掛けると、
一人が下に行き連れて来た。
その後丁度十人面談したが、俺が今欲しい
内政面事務関係の人材だったので
試用期間を三ヵ月として提案し、
双方納得の上で契約した。
俺が始めて面談し、契約という方式でした
初めての人材だ。
ナルヴィの指揮下に全員配置する。
ナルヴィたっての希望だった。
正直今一番負担を強いてしまっているのも
ナルヴィだったので、少しでも暫くしたら
軽くなればと思い賛成する。
「王、失礼いたします」
「どうした?」
「はい、妙な者が動き回っております」
「どういうことかな」
「それが、色々なところに顔をだしては
ここが違うそれが違うおかしいなどと、
連日言ってくるものがおりまして」
「ご老人かな」
「いえ、年少者のような感じですが」
「分かった行こう」
ナルヴィは無表情で立っている。
一言言いそうな気もしたが、
反応も無いし入ってきた兵士も
俺に面会を求めたのは
一度ではない。以前は親衛隊に
下がるよう言われて戻った。
その際に簡単な報告は受けている。
三回目だったし、単純に作業の邪魔
になっているようだ。
俺としては現場でも追い払われている
だろうに、それでも連日通うという
精神力に興味があった。
恐らくその人物が会いたいのは俺だろう。
「何故そのような無駄な作業をするのか!
この大地の逼迫した状況を思えば、
無駄を排し一秒でも早く進めるのが道理ではないか!」
少しわくわくしながら城を出ると、
城壁の修理場所で大きな声がした。
寄ってみると高所で作業をしている兵士たちを
見上げ声を張り上げている者が居た。
巨人族にしては細身で、しかも身長も
巨人族の平均より少し低い。
「何か私の兵士達に用かな御仁」
俺の声に振り返ったのは、顔には確かに幼さを
残していたが、髭を何故か顎鬚のみ生やした
どうも年齢不詳な男だった。
「貴方が新たな王か」
「何か用かな?」
「貴方はこの国に、ひいてはこの大地に改革を
起こそうとしておられると聞いて訪ねて見れば
この有様。私としては失望したが、帰る前に
忠告して帰ろうと思った次第」
「それにしては長く居るな。野宿か?」
「この大地において野宿は一般的なもの。
親切な性質故ついつい離れ辛くなってしまった」
「なら即刻立ち去るがいい。我らはまだこれから。
改善は現場に居る兵士たちも承知しているし、
そこから案を出し実行に移せば、その兵士に
対し恩賞を与える旨も伝えてある」
「その様に悠長で宜しいのですかな?
私の見たところ、他の三国も貴方の動きに合わせて
忙しなくなっていると言うのに」
面白いなぁ。少し見え透いているとは思ったが、
俺を口説きに掛かってきている。
俺の能力を見たくは無いか、と。
野心もありやる気もあり、他を見た上で我が国ならば
と三日粘ったのだろう。あのナルヴィの面接なら
即刻落とされている。お行儀が悪くて。
「さぁな。他国の事は知らん。
我が国は忙しい。それは城下町を見れば分かるであろう?
皆活気に溢れ、発展に寄与するため惜しまない」
「それも無秩序であれば、枝は無駄に見境無く伸びて
収拾がつかなくなるだけならばまだ良いが、
活気が無くなり停滞を招いては害になりましょう」
「秩序で雁字搦めにしろと?」
「秩序は悪いものではありますまい。
良し悪しを示し、そこに王は温情を加えて頂く。
臣にとっての道標になる」
「考える力を今は伸ばしたいのだがな」
「それならば下々の者ともっと語られるべきだ」
「それを仕切るものが居なくてな。人が足りない」
俺はわざとらしく言う。恐らく嫌な顔してると思う。
「門戸を開き採用をしてみては如何か」
「そうだな。勿論そうは思う。どんな感じで呼び込む?」
「……貴方のされたアピールで
この国に今人は集まっております。
皆荒れる海原より多少波は荒れているものの、
嵐は遠く空が青い場所のほうが良い。
何より五百の集団をたった一人で死傷者少なく
捌く王が守る国なら尚更」
「おべっかなら間に合ってるぞ」
「最後までお聞きください。
そんな国で人を募るなら、門戸は広く選別も緩やか
しかし配置は厳しくせねばなりますまい」
「そうだな」
「今現在門戸は広いでしょうが、あの巨大な
城へ一人で訪ねるのはし辛い。しかも入っても
王と謁見するまで狭すぎる」
「新興勢力は旨みが多いのだ。それくらいの
根性を見せてもらわねば、こちらとしても
信じるに値するとは言いがたいと思うが」
「確かに。ですが皆がそう出来るとは限りますまい。
勿論必要はある。が、出来ないものが増えれば増えるほど、
それは悪い方向へと人々の口と感情は動き、
人材を求めているにも拘らず、人材が遠のく事になりましょう」
「なるほどな。気軽さも必要ということは理解した。
ただ先にも言ったが人が居ない。
今のところ手一杯の中時間を割いて面談しているような
状況だ。これからナルヴィと話して考えよう。
それで良いか?」
俺がそう訊ねると頷いた。
「ならば兵士たちをどやすのも止めて
帰るが良い。作業をしている兵士たちの
気分を害して遅らせては、そういった方面に
時間を取られて進まなくなるのでな」
そう告げて俺が踵を返す。
ナルヴィと親衛隊も後に続いた。
「お、お待ちを。少しお待ちを」
「何か」
「我が言をお聞き下さった事に感謝は致します。
ですが王は一つ忘れておられる」
「何を」
「私という者をお忘れではありませんか?」
「忘れてはいないから帰れといっている」
「な、何故です。私の言に同意してくださった
ではありませんか」
「勿論。どんな者であれ、聞くべき事があれば
聞くのは俺の信条だ」
「良い事です。なればこそ、私のした事は
王にとって特になったのではありませんか?」
「だからなんだ。褒美が欲しいなら飯の一つも
やろう」
「そうではありません」
「だから何が言いたいんだ」
「……私を……私をお加え頂きたい!
私をお加え頂ければ
たちどころに改善して見せまする!」
「俺に仕えるという事は頭を下げると言う事だが」
「私の実力を見て否と思わば斬るが宜しい」
ホントへそ曲がりだな。
正直下の者たちに対して偉そうにするだけなら、
相手にもしなかったが、俺にも噛み付いてきた。
そして失礼な言葉を使わなかったのもあるし、
考えている事も悪くない。最後まで意地っ張り
であるのも彼の性格なのだろう。
「分かった。三ヵ月様子をみよう。
俺が雇いたいと思えば改めて条件を提示する。
それで良いか?」
「はい、はい!是非雇いたいと思わせてみせましょう!」
「で、名前は?」
「申し訳ございません。我が名はヨウトと申します。
以後お忘れなきよう」
「分かった。お前も暫く俺に付いていろ。
ナルヴィ、それで良いか?」
「……仕方がありません。三ヵ月のみ我慢いたしましょう。
ですが手心は無きように。それとガンレッドもお傍に」
「ガンレッドは良いのか?」
「勉強になりましょう。それにガンレッドの方が
優秀であれば自ずと答えはでましょうから」
ナルヴィのコメントが気になったが、
この日からヨウトも俺の傍付きになる。




