一日にして成らず
城門を潜り城下町を通って城へと帰る。
皆不思議そうな顔をして見ている。
それはそうだろう。敵が来たと知らせが来て
兵が出て王が一人先に着たんだから。
後からイシズエたちも来たが、
叱られた子供のように何とも言い難い
距離をとって付いて来ている。
戦場で拾った馬は、それに気付いて
首を後ろに向けたが、俺が首を撫でると
察したのか前に向き直り進んだ。
バツが悪いと思うのも仕方ないだろう。
軍を率いるものとして、親衛隊として
傍付きとして、殿を王にさせるたとなれば
意味を成さなくなる。俺としても火急の事態
でなければあんな真似はしない。
其々の仕事を犯すことになるからだ。
建国の祖というのはなるほどこういう
ものかと思う。
王一人のみにスポットライトが当たれば、
自然そこにしか目が向かなくなる。
その王が亡くなれば瓦解してしまうのは
歴史を知る人にはお馴染みだと思う。
ただ利点を言うなら、王以外の者の
成長段階での失敗や失策を大目に見てもらえる、
あの方が居るからその部下が失敗しても
この国は、自分達は安全だと思えば
暫くは許してもらえる面もある。
それも長くは持たないだろうけど。
故にある程度注目を集めた後は、
それこそ真打登場位のもので、
他に任せる功績を称えて褒美や地位を与える、
国そのものの反映にスポットライトを
当てる、そういう動きをして行こうと思った。
なんでイマイチ居心地が良くないが、
これもこの国を先ずは安泰にする為に
我慢する。
「そういえばお前はなんで俺んとこに来たの?」
城の入り口で皆が待っていたので
馬を下りた。が、この馬誰の馬なんだべな。
明らかに賢い顔をしている、この国の軍馬とは
一線を画した雰囲気がある。選りすぐりの名馬って
感じがするが。
「オラシオ、よく王を導いてくれたね」
皆の中からガンレッドが出てきて
そう言うと、馬はガンレッドに向かい歩いていくと、
首を下げてガンレッドの顔に寄せた。
「なんとも参ったな。気が利くというか」
「私めも足手纏いになることくらいは承知して
おりますので、出来ることをしようと」
「祈り……か」
「王のご無事をお祈りして送り出しました。
私の友達です」
「感謝する」
俺はガンレッドの頭を撫でて城の中へと
入っていく。王座に腰掛けてのんびり出来たのは
それこそ一瞬。ナルヴィの無言の抗議と威圧、
ロキの説教に恵理とリムンの抗議。
叱られた子供その他大勢が遠巻きに見てる。
地獄かここは。戦場よりキツイ。
ガンレッドが来ようとしていたが、
目を横に動かし来ない様伝える。
飛び火しても困る。それを察して控えている。
そんな感じでその日は針の筵で
過ぎて行った。次の日に畑に出ると、
農作業するのにそれぞれご立派な剣を
携えている。あるものは近くに鎧すら置いていた。
宜しくないなぁ、暫く無いよと言ったところで、
そういう問題でもないらしい。
遅れを取ったことに対する後悔と怒りと
色々綯い交ぜになって雰囲気激悪である。
しかし良い事もある。
城内が活気付いてきた。俺がコソコソ動き回って
耳にしたが、どうやら主が変わりそれがめっぽう
強く、また出世のチャンスがあって飯が食えると
聞いて他所から人が来ているらしい。
こうなったら商売に対しての税とかを軽くいないと。
あと住民税もなるべく収入から少ない金額に。
先ずは定着させ才を集め発展させないと。
……そう考えれば考えるほど文官だよなあ。
何処かにおらんもんかね。そういう教育を受けてて
且つ普通の暮らしを知ってる人。
「おっつかないなぁ……人が足りない人が足りない」
咳払いをされて我に返る。
王座の前に大きなテーブルを置いてくれたので、
皆と政務をしていたのを忘れていた。
「お気付きになられていないと思われますので
申し上げますが」
「申し上げなくていい」
「暫くして集中された後より、
ずっと人が足りないと連呼されておりますが
お疲れなのではないのですか?」
「この国でお疲れでないのは一人も居ない。
老若男女全てな」
「あれもこれもと神でもありませんから
出来ないと申し上げたはず」
「でもなぁこれだけ肥沃な土地があって、
今がチャンスなんだ流れが来てるんだ
ここでガッツリ引き付けたいんだ」
「恐れ多きことながら、
ローマは一日にして成らず、でございます」
「欲深いと言いたげだな」
「僭越ながら金持ちの子供のようです」
「……慇懃無礼という言葉を知っているか?」
「無論でございます」
すまし顔で言うじゃないか。
分かってるけど言葉にされると腹立つ。
「分かってるがな、あれもこれも今はやる時だから
やる。それこそローマは傭兵によって滅びたように、
任せてほったらかしにしてたら駄目だろ」
「ローマが傭兵によって滅びたのは民族大移動や
ローマ全体の平和ボケと特権による腐敗でしょう。
今この国にそんな暇はありません。
が、王が民以上に走られては
息切れもします。そこをお考えくださいと
何度も申し上げているはず」
「……人が足りないんだからしょうがない」
「一日で育つ竹は良い竹なのでしょうか。
それがお望みで?」
俺も大概口の立つ引きこもりだと思ったが、
こいつには勝てる気が微塵も無い。
いつかコイツをぐうの音も出ないようにしてやりたい。
そう俺は誓いつつ、書類に目を通す。
その視界に新しい書類が入る。
俺を口で打ち負かしただけでなく、
手は仕事をしていた。ホント有能だが
腹立たしいやつだ。
「何人かリストアップしましたので、
もしお気に召しましたらお会いになりますか?」
ホントイライラするわ……。




