朝、一人歩くものと狙うものと隠れて守るもの
大体そんな感じで一日は過ぎて行く。
前に攻めてきたおっさんも、踵を返す
勢いで再度攻めてくるのかと思ったが、
そんな事もなく一週間は過ぎていく。
オレイカルコスの週が七日と
俺の世界と何故同じなのかというと、
六日日が昇り沈んだ後の七日目に
大地の恵みと彼らの大地神である
ユグに感謝をする日で
作業は休みだったからだ。
ユグって恐らく地下に居るユグさん
ぽいが敢えて言わない。
伝説の中の話として、何もない場所に
大地を作り作物を作り巨人族を生んだらしい。
……なんだろうそれと察したのかな。
機会があればユグさんに聞いてみよう。
「はっ!」
休みの日ということもなく、
引きこもりの時は朝起きると言うことも
しなかったけど、今はしている。
というのも日中やると皆が寄ってくる。
稽古を付けてほしいのもあるかもしれないが、
今は激流の中。自分の明日を掛けて
身分を一つでも上にしたい。
そう考えれば自分をアピールしたい
者も多い訳で。分かるけど落ち着かないから
目を盗んで外へ出る。エメさんが教えてくれた
あの頂の上で、相棒二振りを振るう。
警戒するように震える相棒二振りを
収めた後に、突きや蹴り体の動かし方など
打ち蹴り動かしながら、
自分なりに修正していく。
星力があるからといって油断は出来ない。
「気は済んだかな?用があるなら聞くが」
後ろを振り返り声を変える。
隠しているだろうが、じわりと感じる殺意。
こう言う時戦場を体験していて良かったと
思う。ブロウド大陸での戦の時戦場で感じた
突き刺さるような多くの殺意は、殺意という
ものを肌と頭で明確に感じられた。
「お気付きで」
「まぁね。で、何かな」
「宜しければ我らが場所までご同行願いたい。
茶でも一つ差し上げよう」
「断る」
「何故かな」
「この状況で茶などという高級なものを
知りもしない相手に出すほど余裕があるなんて、
この辺りには居ないはずだ」
森の中からわらわらと黒尽くめの
巨人族が出てきた。巨人族でも暗殺部隊が居るのか。
「いえ、我らはロキ殿の命で
お迎えに上がりました」
「嘘を吐け」
「嘘とは」
「ロキは今神経質だし密偵を放つにしても、
もっとも確実に言わばロキ自身で
生死をコントロール出来るレベルまで
掌握する。茶などというものを出した事、
それと言葉遣い。この二点は失策だ。
だが感謝しよう」
「何が」
「俺たちの中に密偵が、裏切り者が居る
ということが分かった」
「何故そのように思う」
「ロキの名前をそう多くが
知ってるわけではないし、
今我が軍は我が軍の中での出世や
地位を競い争っている状態だ。
ロキを気にするよりももっと大事な事がある。
この貧困で自らの出世は明日の飯につながる。
チャンスも少ない。言わば生死にも直結する。
それ以上にロキの名が気になるということは」
俺は相棒を引き抜く。
「それが分かれば出世につながるという事だ」
ぱっと見、十から二十と言った所か。
何人かは生かしておこう。
俺は黒隕剣に気と星力を最小限通し、
薙いで五人を一気に切り伏せた。
それに怯んだ三人を鳩尾、顔面、急所と
突きと蹴りで捌いた後、止めを刺す。
「……なんだこいつは……」
「驚いて怯んでいる暇があるのか?
お前たちの狙う王の首はここにあるぞ?」
俺は自分の首を左手でぺしぺし叩いて
相手を挑発する。吹き矢のようなもので
攻撃してきたが、当たらなければ、という
ものである。風は俺に追い風なので、
煙も意味を成さない。
「おい……お前らやる気あるのか?
巨人族なんだろ?こんなチビに苦戦して
怯んで、お前たちにプライドはないのか?」
煽ってみる。内心キレてるだろうが
冷静だ。実に良く訓練されている。
……欲しいな。
「どうだ、俺に組しないか?」
「戯言を!」
お、激して返してきた。
脈ありかな。
「さっきも言った通り、我が軍は人が欲しい。
能力があれば尚の事、喉から手が出るほど欲しい。
お前たちが里を成しているなら、
それ丸ごと欲しい。必要なら軍を挙げて取るほどに。
食わせてやるぞ?見ただろうあの豊穣の地を。
これから更に増えるぞ?乗り遅れて子を餓死させて
滅ぶのが望みか?俺に勝てるのか?」
一気に痛いところを突いて揺すって見た。
ガックガクになる。それは当然だろうな。
この土地を取ったということは、この大地において
どんな力よりも大きな力だ。
この誘惑に自分は耐えれても、人を率いる者や
里、村、街、国を率いる者がそう簡単に耐えれる
レベルではない。
「別に直ぐどうしろとは言わん。
考えておけ。連絡手段は何でも良いから、
待っているぞ?」
俺は彼らの前を通り過ぎ、山を降りる。
追ってくる気配はない。暫く歩いて
ほっと一息。幾ら自分が強いなぁと思ってるとはいえ、
不死ではない。何で死ぬか分からない。
この世界で結局生きていけませんでした、
なんてことになる可能性もあるんだから。
「お怪我はございませんか?」
不意に声が掛かる。
俺の横に来たのは見知った者だった。
「子供は寝てる時間だが」
「そう子供ではありません。それに
毎日ではありません。偶々体調の関係で
目が覚めました故」
「何処か具合が悪いのか?」
「……何といいましょうか。説明が難しいです。
ですが重篤なものではありません。
私と同じ者なら必要なものなので……」
「重篤でないなら良いがな。
後で昼寝などすると良い。お前たちは
この国の、この大地の宝だ。
お前たちが頑張るのは俺が頑張った後で良い」
「勿体無いです。この激流を間近で見れるのは、
生きている者のみでございます。
書物よりずっと良い」
何と言うか、ガンレッドみたいな者が
いると、おっさんも頑張り甲斐がある。
この者たちの未来を繋げる為に戦うなら、
全力で万難を排したいと思うし、
きっと俺が道半ばで倒れたとしても、
後を繋いでくれるだろうという希望がある。
「分かった。負けたよガンレッド。
お前を正式な俺の側付きにするよ」
「ほ、本当でございますか!」
「嘘を言ってどうする。このまま
ひっそりくっ付くより良いだろう。
但し危険なところには付いて来るな。
はっきり言うが足手纏いになる。
無駄な犠牲は要らん」
そう俺が厳しく言っているが、
当の本人は聞いていない。
俺の周りをスキップして走り回り、
抱きついたりしてくる。子犬か。
「聞いてるのか」
「はい、はい!聞いておりますとも!
父上と母上に早速伝えねば!」
「全然聞いてないだろ」
「いえ聞いておりますとも!」
まぁ元気なことは良いことだ。
俺とガンレッドは城に帰還する。
当然のようにナルヴィの激怒に近い
表情からの説教があった。
だが合間を見て一日続いたのは地獄である。




