王とは
その後暫く一人の時間を堪能して
俺も下へ降りる。生まれて初めてレベルで
無心でただボーッとしていた。
割と悪くない。頭がスッキリしている。
フロアには丁度上へ来ようとしていた
イシズエ夫妻が居た。
俺も承知していたがやはり熟成期間が、
発酵させる時間が必要なので、
直ぐには出来ないという事だ。
製法についても以前ネットで見ていたものと
変わらない感じだったので、元王妃に
一任した。その方法で大豆を使い
新しい調味料や食事の開発もお願いする。
「あ、そういえば元王妃はなんていう
御名前なのかな」
俺がそう二人に尋ねると、
「是非王にお名前を頂きたく」
そう言って来た。
「いやそれは違うからさ。
どうやっても頑固に名前を言わないから、
それならこの国の、この大地の
基礎、俺の国で言う礎となれって思って
そう呼んでるだけだからね?
何時本名を名乗っても、っていうか
俺には教えろって。これは屋号みたいな
ものだと考えてくれ。屋号っていうのは
その一族一家の特徴を加味して付けられる
もので……」
あわあわしながら説明した。
「なら妻もイシズエで宜しいのですね?」
「宜しくない」
「まぁまぁ。要するにあれよ。私たちの
国では、苗字と名前、苗字は一族の、
名前は私たち個人のものがあるの。
イシズエは苗字、もう一つ必要だから
コウは教えてって言ってるのよ」
見かねた恵理が俺の後ろから顔を出して、
二人に説明してくれた。
「そうでしたか……それは失礼を致しました。
私は親よりフェメニヤという名を頂いております」
「そうかフェメニヤさんね。ならフェメニヤさん
調理場を仕切ってもらって、恵理ともよく相談して
事を進めてほしい。俺は食が専門じゃないから、
他の人もそうだけどなるべくわかる言葉で
報告してくれると有難い」
「心得ました」
二人は一礼し、俺の後ろへ回る。
回らなくて良いのにと思いながら見たが、
恵理に肩を捕まれ中庭へと出る。
そこでは箱などを椅子として使い、
前にはテーブルが置かれ簡易的な
食堂と化していた。恐らく雨が少ないから
外で食べるのがここでは一般的なのかも
知れないな。
「こちらへどうぞ」
と薦められたのは俺だけご立派な
椅子を用意されていた。
わしゃパンダじゃねーわ。
そう思って他を探したが、
イシズエとフェメニヤさんだけじゃなく、
ロキとオンルリオ、恵理とリムンにも
逃げないよう囲まれた。
「な、なんで」
「ダメダメ。さっさと座ってくれ。
飯が冷えるよ」
「そうよ。王様が偉そうにしてないと
皆困るのよ」
「そうだのよ。あたちお腹空いたのよ……」
そしてそのテーブルの近くには
エメさんとナルヴィが居る。
問答無用かぁ……。
「コウ王、お早く」
「解ったよ……」
言葉と声は優しく促しているが、
明らかにやれやれだぜって言ってるぞお前。
「コウ王。敢えて申し上げます」
「要らん」
「王が禁欲で節制されるのは宜しいですが、
そんな王を戴く下のものの気持ちもお考えを。
誰が己の物や食を豪華にしようと
思うでしょうか。
誰が地位を得名誉を得ようと思い
奮闘するでしょうか。
働くこと戦い勝利することの
先にある夢としての
王である事も御自覚下さい」
あー耳が痛いなぁ血が出そうだわ。
確かにそうですね。
成金とか成り上がりとか嫌だけど、
今はそうなっちゃってるし、
皆も変わる、新しい国の在り方として
俺を見ている面もあるね。
成果を出せば残せば豪華な暮らし
豊かな暮らしが出来る。
この肥沃の土地でそれを王がし、
民がしていれば
それは違う場所に居る
普通に暮らす人々から一般兵にも
効果がある。
「……これも王になる覚悟か」
「そういう事です。腹を括ったのであれば、
毒も美味も合わせて美味しそうに
食すのがお役目で御座います」
甘いなっちゃいないと暗に言うナルヴィ。
俺は辟易しながら聞いた後、イシズエを見る。
苦い顔をしていたが、俺の言葉を信じてくれたようだ。
ナルヴィは誰だったら手加減して会話するのだろうか。
「では王よりお言葉を頂く」
マジかよ頂きますじゃないのかよ。
俺はさっき俺が考案したラーメンに
箸をつけたが直ぐに下ろした。
「あー皆激動の一日お疲れ様。
今後交代シフトも調整しつつ、
作業内容も見直していく。
また文官武官の募集も作業が早く進めば
早いうちに実施する。
その中でより細かく分けていく。
ただ立て直し中の朝は、皆で小麦畑に出て
小麦を収穫し食事用に加工する。
これは俺も例外ではなく、守備の少数を
残して全員とする。
では大地の母の恵みに感謝し、頂きます!」
文句を言われそうだったので
こっちも問答無用で頂きますした。
そして食べ始める。美味しい。
「王、少し良い?」
エメさんが俺に声を掛ける。
警護の関係なのか、俺は実質ど真ん中に
座らされて見守られながら食している。
「どうぞ」
「王はなんて呼べばよいの?」
「コウで良」
「コウ王で統一願いたい」
後ろからレーザービームよろしく
俺の発言を指すナルヴィ。
「じゃあコウ王、大地の再生についてだけど」
「何か良い案があるかな」
「やはり先に海に行きたい」
「無理かなそれは」
俺は声を出して承知しない。
ただしエメさんに向けて人差し指を
口に当てて頷く。そして俺の左胸を軽く叩く。
大地を蘇らせる為に、出来れば海産物の様子を見て
それを大地の上に敷きたいのだ。
だたこれを他に漏らされると
挟み撃ちや奇襲を受けかねないので、
俺は敢えてそうした。
エメさんは小さく頷いてくれた。
改めて後で説明しておこう。




