嫌われ役
「王、宜しいでしょうか」
うんざりしたところに、
イシズエが兵士を連れて上がってきた。
それに気付いてナルヴィは俺の横へ
移動する。
「構わないよ。あ、これはナルヴィ。
少し前に仲間になった。
恐らく事務関係の処理は強いと思う」
「そうですか、宜しくお願いします」
イシズエは一応頭を下げ、
ナルヴィも頭を下げたが何か変な空気が
流れておる……。
「あの、王様」
「何かな」
「文官の募集とかは外部とか王の知り合い
とかから選ばれるのでしょうか?」
不意にイシズエがつれて来た兵士の
一人が俺に訪ねた。なるほど。
確かに俺の国でも縁故採用は問題になってたな。
「将軍たちの兵士たちにも言ったが、
才を求めている。出来ればここに居る
兵士の中からも多くの文官武官を取り立てたいし
今後はメインになる。ただしそれは新しく
来る兵士たちも入れて、だ。
今お前たちはチャンスの真っ只中に居る。
何しろ最初に多くアピールできるんだからな。
流石にそれを逃した者を早急に探して
取り立てるというのは難しいだろう」
「文官はどのように……」
更に質問してきたところで、ナルヴィは
咳払いをし一睨みしている。
「あー、まぁその為のナルヴィだ。
文官の選抜に関して試験を執り行いたいと
俺は考えているよ。心配しなくていい。
寧ろその時の為に頭を常に働かせてくれ」
「王、私から一言宜しいですかな?」
「宜しくない」
「では一言だけ。……兵士諸君、
恐れ多くも王の前で傅きもせず、
直接敬語も使わず無礼であろう。
王は君たちの友達ではない」
「し、失礼致しました!」
全員が傅く。宜しくないって言ったのになぁ。
こいつ俺を持ち上げるけど結構ぞんざいよね扱いが。
「おいナルヴィ」
「線引きは必要です。
何れ褒賞のみならず、懲罰も与えねば
なりますまい。統治なればこそ、
公平を期するが故に泣いて馬謖を斬らねば
ならぬ事もあるのです」
「言われなくても解ってる」
「解っていらっしゃるなら宜しいのですが、
王は偶にそれを海の底に忘れておいでになる」
元々いけすかない所はあるが、
ここまで露骨に人前でやらんかった気がする。
という事は嫌われ役にもなれるって言いたいのね。
「解った。そうまで言うならその懲罰など
軍律についても草案を直ぐに出してもらえるんだろうな」
「お任せを」
「宜しい。イシズエ、改めて用件を伺おう」
俺がそう声を掛けるとイシズエはハッとなり
我に返ったようだ。思いっきり敵視しておる。
誰をとは言わないが。
「も、申し訳ございません。本来であれば
この国の事故私めが礼儀作法を説かねば
成らぬ立場でありながらナルヴィ殿に
お手間を取らせまして」
めっさ早口で捲くし立てつつ、
頭を床に叩き付けておる。悔しさ爆発やん。
「イシズエ殿、であったかな?」
「はっ!」
「その様な行為は無意味であり無駄である。
王に仕える者がその様な有様では
この国の未来も危うい事になりましょう。
頭を上げられよ。私に対しての謝罪も無用に
願いたい。謝する気持ちがあるのであれば、
王に対して働きで返して頂きたい」
……どこの昼ドラの小姑なのか。
そしてここは昼ドラなのか?
「はっ!」
「しかしイシズエ殿。王から名前を
頂くなどという、余程の功績があったと
お見受け致すのに、その様とは貴殿には
王を恐れ敬う気持ちが無いと見える」
「その様なことは決して!
断じて有り得ぬ事!」
「どうであろうな。まぁ良い
そのような様を続けるような
愚鈍にして蒙昧なる輩であれば、
我が剣の錆びにしてくれる」
その言葉にイシズエは
身を震わせている。
おじさんお腹痛いなぁ……。
胃腸薬を調合して頂きたいわ。
「いい加減にしろナルヴィ。
少し頭を冷やして来い」
その言葉に何か言おうとしたが、
俺は首を振って手でしっしっと
追い払った。
恭しく頭を下げて下へ降りる
ナルヴィ。
「すまんな皆。あいつは俺に対しても
ああだ。だが能力は間違いない。
そして全て間違っている訳でもない
と思う。俺も気軽過ぎた部分はあるようだ」
「いえ、いえ!決してその様なことは!」
「良い良い。王という位置に居るが、
何れこの大地が平和になれば巨人族の
人たちに返すもの。憎まれてこそという
側面もあるのを忘れていたようにも思う」
と俺が語るとイシズエは肩を落とす。
解りやすいのう……。後ろの兵士たちは
驚いた顔をしている。なんだべ。
「お互い反省すべき点があるということで、
この事は心に留めておこう。
で、改めて用件を聞こう」
イシズエが連れて来たのは
元々水路を管理していた兵士たちで、
出来ればこれを機に、水路の見直しなどを
行いたいとの事だった。
「構わない。で、草案はあるのか?」
「いえ」
「なら早速取り掛かってくれ。
解っているだろうが、いつ襲撃が起こるかも
しらん。城壁の修理と城の補強が第一優先事項だ。
そこを削って施工したいのであれば、
今草案を出てきて意見を仰うのでも遅くは無いのだぞ?」
「はっ!」
俺は極力柔らかく笑顔で、ただ声は真剣に
伝えた。兵士たちは逃げるように
下へ降りて行った。
「うーん威圧的じゃなかっただろうか」
一応それとなーくイシズエに聞いてみたが、
頭が床とランデブー中らしい。
「今日一日で完璧を期することも無理だろう。
そう気にすることは無い。長い戦いになる。
どれだけそれを縮められるかの勝負だ。
知恵比べの側面も強い。気付いたら修正する、
お互いにまだその時期だ」
「有難きお言葉!」
「気負いすぎて倒れてくれるなよ?
俺もそうだけどそんな事になれば
枕元で小言嫌味のオンパレードであることは
想像しなくても解るからな。気を付けよう」
「はっ!」
「なら引き続き頼む。夕飯もそろそろだろうから、
女性陣のところへ顔を出してきてくれ。
あとな、奥方に俺が頼んだものはいけそうかどうか、
そこも確認をして必要なら二人できてくれ」
そう言うと頭を二、三回床とランデブーした後
足早に去っていく。要らん気遣いかもしらんが、
無いよりマシだろう。




