知らぬが仏ってこともある
「何にせよお前は必ず倒す。
俺の本が如何に素晴らしいか
解らせてやる」
俺はうんざりした気持ちで
聞き流す。
「でもさ、ここは僕らと領地を
奪い合うんだから再戦したら?直ぐに」
ロキが余計なことを言う。
俺は睨まないまでも、改めて気を張り直す。
「フン。今更そんなもの要るか。
ただ世に聞こえし巨人族というものを、
相手にしてみたまでよ」
そう言いつつもアーサーは溜息を吐いた。
「なんだかしんどそうだな」
「ん?……いや何。
まぁ農民の辛さが解らんでもなくてな。
こんな世界まで来て現実を突きつけられるとは
何とも惨いと思ったまでのこと。
改めて物書きや作り手が、上に立つというのは
好ましくないと言う結論に至った」
「だろうね。上手くいかなくなるとキレたりするのは
以ての外だしね」
「……まぁ今更何を言ったところでどうでも良い事だ。
俺は一人、理想の俺として貴様を倒すという
結末を迎える。お前たちにはここが必要だろうから、
俺は他所へ行くとしよう。俺は俺でやることがあるのでな」
何かホントに何もかも捨てて悟ってすらいるような、
そんな感じがする。ただし俺に対しての拘りは残ってるから
悟ってんのかどうか。悟った挙句俺を倒すとか最悪である。
「ならばまた会おう。その時は決着を付ける」
そう言うとアーサーは広間の中に解けていく。
俺は構えを解かず気配を探っている。
「どうやら嘘じゃないみたいだな」
「騙まし討ちしたいならとっくにやってるでしょ」
「アイツはオーディンの事をよく知ってるのか?」
「……あー、まぁ知ってるは知ってるけど……。
バトンタッチするよ」
ロキがログオフしておる。
「……そうだな。端的に言えば意見交換して
反りが合わない程度には知ってるかな」
「作家同士の喧嘩って事ですか?」
「それはノーコメントだ。だが色々あっての
主張が同属嫌悪的な感じで合わなかった。
以上」
そして神ログアウト。
「それって世界と俺らにとばっちりの可能性は?」
「知らぬが仏っていうだろ?起こった事を知って
妙な怒りを持つより、今は解決に全力を注ぐのが
一番良い。怒りは僕が持っておくよ」
呼んだ人間の選択ミスとかだったりしても、
それをどうにも出来ないし、しても無益って事だな。
俺は取りあえず納得したから剣を納める。
どうあってもまた命懸けの戦いになりそうだ。
そう思うと溜息も出るが、それはそれ。
先ずはここを制圧しないとな。
「よっしじゃあ王様探しますかね」
「これ?」
エメさんが蔓で簀巻きにされた、
デカイ顎鬚満載の巨人族を引っ張ってきた。
「へー王様でも頭に角生えてないのな」
「無いだろうね。ドラフト族じゃないからね。
巨体ではあるけど、脳筋特化ではないし。
人間のサイズアップ版だと考えれば解り易い」
「なるほどね」
「で、どうすんのこれ。説得も何もないじゃん」
「おじじはのびてるだのよ」
恵理は王様の腹の辺りを鎌の柄で突き、
リムンは枝で顎鬚をわしゃわしゃ撫でていた。
「あー君たちこれでも王様なんだから弄らないの」
「んなのはどーでもいいんじゃない?
ここはアタシらが貰うんだし」
「そうだのよ」
あぁ~リムンまで毒されておる毒されておる。
「んーまぁなんだ。一応お偉いさんだから
いじくり過ぎないようにな、うん。
で、参謀役。俺はこっから下へいって
他を制圧し無力化するのが良いと思うけどどうか」
「うーん折角凄い戦力が要るんだし、
蔓で拘束しても良いと思うけどね」
「それだと俺の力が凄いー!みたいにならなくて、
求心力っていうかそういうのが無くないか?」
「え、別にリーダーが凄くなくても、
その人についていく人が凄かったら凄くない?」
恵理の発言を聞いて、俺とロキは感嘆の声を上げる。
確かにそうだな。解り易く言うだけで俺は全く違うけど、
劉備元徳に対しての関羽雲長、徳川家康に対する本田忠勝
かな。何よりそうなると俺とロキ、恵理とリムンの戦力は
切り札として使える……けどこの大陸の人間は
俺たちの事なんて知らないだろうから、どこかで名を上げる
必要はあるんだけど。
「まぁ小出しにしていけば良いと思うよ。
いきなり全力でやる必要はないさ。
何より胃袋を掴むっていう策もあることだし」
ロキにそう後押しされて覚悟を決める。
「よし、エメさんヨロシク頼む。
残りの巨人族を蔓で拘束して欲しい」
「解った」




