本陣への奇襲
「引きこもりのおっさんが美味いものを
作れるかどうか楽しみにするよ」
「楽しみだのよ!」
「はいはい方針が決まったならさっさと行くわよ?
私たちはゴルド大陸来てからこっち、
満足なベッドで寝てないんだから!」
そっか。修行中も碌な寝床無さそうだしな。
ホント現代が懐かしい。あんな静かな環境で
眠れていたことは奇跡のように感じてしまう。
「じゃあ行きますか。恐らくさっきの襲撃未満の所為で、
この真上近辺は確実に張られてる。となると出来れば
別のところから進入したいんだけど」
俺はユグドラシルに視線を向ける。
――なら貴方たちが入ってきた場所より後ろへ
三キロほど進むと丁度城の真下に行けます――
「ありがとう。ならそれで行こう。
どうせ警戒はされている。上手く忍び込んで、
なんて考えないで堂々と奇襲をして一気に制圧しよう」
「新しい言葉ね堂々と奇襲って。でも好きだわ」
「おっさんが好きなのかい?」
ロキはギリギリで避けた。両刃の鎌を。
「恵理、それは新しいバージョンか?」
「ちっ……こんなところで出したくなかったけど、
つい感情に反応しちゃった。これは新しい私の鎌。
ラハムさんのお手製よ。オーディンとかいうのの
息一つ掛からない、例えロキと言えど、隙あらば
その魂ごと刈り取れる鎌よ」
シンプルな黒い両刃の根元付近から、切っ先に
向かって、蔓の様な柄が彫られている。
ラハムさんは鍛冶師でもあるのかな……凄いわ。
「はは、それは気をつけなくちゃね。さ、そろそろ
行くとしようよ。時間をかければ隙も増えるけど、
僕は暇なのが嫌いなんだ」
「リムンは?」
「あるだのよ」
「今出さないの?」
「内緒だのよ」
「そ、彼女のはこの先大いに役に立つんだから、
内緒なんだよ」
「なんでロキが知ってるんだ?」
「知ってるさ。でも僕は何もしてない。
ただ知ってるだけ」
ホント胡散臭さにかけてはこの世界一である。
ただリムンも内緒にしたいと言うのなら、
それは内緒に、そして楽しみにしておこう。
「よっしゃ!皆行くぞ!」
俺は駆け出す。こういうのは勢いが大事だ。
一つ一つ考え始めたらキリが無い。
俺の掛け声に反応して皆走り出す。
「あれ」
俺の横を併走するのはエメさんだ。
俺の驚きの声を聞いて首を傾げる。
「良いの?手伝ってもらっても」
「母と手を組んだ。それに美味しい
ラーメン私も食べたい」
答えは実にシンプルだ。
ならば良い。大軍で掛かるより、
この少人数の方がやり易いし護りやすい。
「ロキ、相手の人数は?」
「そうだね五百居れば良い方」
「前線に出てるのが居るって事か」
「勿論」
てことは全体として万を越す軍同士で
戦うような人口はもう居ないって事か。
だとすれば余計奇襲は効くだろう。
そして拮抗状態であればあるほど、
相手のことは調べて抜かりないはずだ。
異分子が入ってきて時間が経てば、
奇襲に対する構えもするだろうが、
この状況下で本陣を突くのは難しいだろうし、
何より五百居れば問題ないと踏んでいるだろう。
「よし、狙いは王一人だ。なるべく最小限で
制圧するぞ皆!」
「「「おう!」」」
俺は丹田まで息を吸い込み、
気を充実させるべく全身に行き渡らせる。
「コウ、そろそろ真下」
エメさんの声に足を止める。
俺は大分加速したつもりだったが、
彼女は気にせず付いてきているあたり、
強そうだ。戦力として計算できれば有難い。
「よし、じゃあここは俺がぶち抜く」
「いやいや君じゃダメでしょ。全部吹っ飛ぶ。
ここは神である僕の妙技で」
「はっ。アンタがやったんじゃ城に住めなくなるわ。
ここはアタシの新技で」
「やっぱりここはあたちの新技だのよ!
見て驚くとよいだのよ!」
「いやここは主役たる俺がだな」
などと言い合っていると、
ドゴン、という音が鳴り、天井が落ちてきた。
「お先」
エメさんはそう言い残し天井まで飛び上がった。




