自分のみをまもるもの
「憎かったのか恐れてたのか。
やる事が徹底的だよね。二度と逆らわないように
する為に。何より根絶やしにしない所が嫌らしい」
ロキは吐き捨てるように言う。
あそこまで出来るんだから、苦しめず一気に消滅
させる事も可能なはずだ。そこを敢えて半壊させ、
更に食料も限定的にし互いを争わせて滅ぼす。
実に回りくどく残酷で非道と言わざるを得ない。
「この島の子供は無事育ってる?
というか生まれてこれてる?」
俺がロキとユグドラシル、エメさん三人の
顔を其々見ながら問う。が、返事は沈黙。
「……兎に角効果的だった。あんな有様を
見せられれば、幾ら時が経とうが反抗しよう
その時の事で糾弾しようという気すら起きなくなる。
本来なら大きな声を上げてしかるべき非人道的な
話だからね。で行き場を失った責任や憎しみは同じ民族の
弱いものへと必然的に向かうわけだ」
そう自ら傷つくことなく、戦争だからという
理由で押し通せるギリギリを突いたんだ。
直接手を下さずに。
「で、誰がオーディンと手を組んでいるんだ?」
「見逃されてるところ。生きるギリギリのラインを
維持させる為に、生存税ぽいものを渡させてる」
「なるほどね」
だからユグドラシルが居られる訳か。
上手いなぁ実に上手い。戦いに勝つという点で見れば
流石オーディンと言わざるを得ない。神話よりえげつないけど。
それはそれとして、どう戦っていくか。
この大地は今隔離されている。その気になればこの大地のみを
消滅させる事は可能だろう。だがそれをしなかった。
自分の手を汚したくないからだと思う。
例え他の世界であったとしても、多少罪悪感はあるんだろう。
そこを突くしかない。自らの手で滅ぼす事を放棄した心の隙を。
「あの荒野見たいな事を何回出来るのかな。
俺の世界でもあれに似た光景を写真とかで見たことがあるけど、
長い年月を掛ければ自然は生態系を取り戻していたんだけど」
「密閉された中から少しもれた程度ならね。
今ここは密閉された中だ」
「てことはああいう風にした物質は、まだ大陸を漂ってる?」
「いいや。大地から生物を死滅させた後は、生物にのみ影響が
残るような物質のようだ。被害を免れた巨人族は普通だ」
なんというか巨人憎し身の安全第一で放とう、
なるべく自分に優しい設定でやろうみたいな感じが、
オーディンの子供っぽさを感じさせる。
生物のみを標的とした極小魔法爆弾みたいなものか。
なんにしても性質が悪い事には変わりない。
「恐らく打った人物もこの威力は想定以上だったんだろう。
二発目三発目はあったけど破棄してる」
「そうか、それなら暫くは安心だな。
作ろうと思えば作れるんだから安心は出来ないけど」
「そうだね。ただ本人の性格からしてやらないとは思う」
「どうだかな。信用は出来ないな。されたくも無いだろうけど」
「言えてる」
「……で、だ。てことはちょっと間土地や生態系の回復に
時間を割いても問題ない、それこそ爆発的に人口が増えない限り
動きは無いと見ても良いもんかね」
「良いと思うよ。偽装が出来れば尚の事良い。
こことさっきまでの世界を繋げられれば、
偽装なんて思うがままだ」
なるほどね。巨人族を各地に分散させれば、
大地は蘇らせやすい。これにはユグドラシル母さんもにっこりだ。
「取りあえずバグを取り除いて、繋がる様に新たにリンクを
作れば良いか」
「最初に戻るけど食糧問題を、生態系の回復もしてかないと、
最終的にドン詰まり、互いが互いを相食む展開になる」
「うーん困ったなぁ」
長期戦になればなるほどオーディンは有利になる。
それを阻止する為には短期戦しかない。
どうしたもんか……こういう時に何か知恵が無いものか。




