地に居るもの
「ロキ、ここの王様に会いに行く必要が無いなら、
下に行こう。そこに問題があるんだろ?」
俺としてはまた洞窟に潜るのは億劫だが、
それでも原因をはっきりと見定めて、
それに対する方法を考えないと、
結局やってることはオーディンと変わらなくなってしまう。
「……仕方ない」
諦めの言葉を発したロキの肩を、
言葉が終わらないうちに掴む。
「こいつらを今やっても意味無い。
使うべきときが来るかもしれないから黙って去ろう」
ロキに耳打ちすると、死による永劫の始まり(ロンギヌス)を
呼び出そうとして開いた手を握る。ロキは直ぐに踵を返した。
割と感情的で子供な一面もある。俺が制止してるのは不思議な気がする。
「じゃあ行こう、かっ!」
少し歩いたところでいきなり地面をぶっ叩くロキ。
マジかーどうにかして憂さを晴らさないと気がすまないかー。
俺は飛び散る岩を跳ね除けながら、
遠退きそうな意識を保ちつつそう思う。
「さ、降りて降りて」
「……お前は相変わらず味方だか敵だが解らん事をする。
一応話によってはがっつり味方でいらん事しないんじゃないのか?」
「僕がそんなおりこうさんに見えるかい?」
悪戯小僧全開で笑うロキ。
まぁ期待してないけどね。そうであったらと
願わずには居られないけども。
ロキは開けた穴に飛び込む。
俺は背後で騒ぐ門兵に苦笑いをしながら手を合わせて
「ゴメン塞いでおいて!」
と告げて飛び降りる。取り合えずダンジョン形式で
無いようで何よりだ。
「コウ、星力を」
ロキの真面目な声のトーンに反応し、
俺は星力を纏う。いざと言うときには相棒を抜けるよう、
柄に手を添えた。
「そろそろ着地するから、空気を蹴って重力を殺してくれ」
難しいことを簡単に言うなぁ。エアウォークなんて
したこと無いんだが。俺は取り合えず文字通りのことをして、
上に跳ぶような感じにしてみた。
「あら」
不思議。着地の際に思ったより衝撃が無い。地面も無事。
あの高さから大分落ちたのに。星力凄い。
「覚えておいてくれ便利だから」
「空中戦をやるなら空を飛べるようにしてくれ」
「ここでは無理だね。エーテルにオーディンの力が反映してるし、
元々この星の縛りが重力だ。そのルールに抗う場合、
何かペナルティを受けることになる」
「竜もか」
「竜なんてペナルティ山盛りじゃないか。
強くて空は飛べても、反面素材として人に狙われるし、
巨体だから的にもなりやすい。そして凶暴なのと温厚なのの
差が激しい。子孫を残す場合特殊な方法が必要だしね」
確かにね。竜が人と同じサイズになる場合、
魔力も変わる時相当使うし、維持にも掛かる。
更に能力は勿論ダウンする。
「そういう面から見ても神ってのは凄いわけ。
だから性格も傲慢になりがちなのさ。ルールを侵しても
何も問題ないって勘違いしがちだ」
ロキは呆れたように言う。オーディンの事だろうな。
まぁそのお陰で俺は生き残れた気がしないでもない。
「……貴方達は何です?」
俺は目の前に居る、緑の体に口がなく大きな黒目の
女性のボディラインをした者を見る。
ロキが喋っている間も勿論警戒していた。
ただ間合いを詰めること所か動くこともしないので、
そのままロキの話が終わるのを待っていた。
「人間でコウっていうおっさんだ」
「僕はロキ。君たちの敵だ」
……煽るなぁ。よっぽど機嫌が悪いのか。
俺は呆れつつも身構える。喧嘩を売ったんだから、
相手も仕掛けてくるに違いない。
俺は腰を落として柄を握る。
「……よく解りませんが、取り合えずこちらへ」
理解していないようである。
敵っていう言葉を説明したほうが良いのだろうか。
「ほら行くよ」
ロキは緑の者の後に続いて歩き出し、
にこやかに俺を手招きする。暢気だ、暢気過ぎる。
ホント困るなぁこの神様。




