決め手
最後の舞台に上がる前に、冒険者は幕間へと導かれる。
「ギャー!」
俺は両眼を強引に開けられ、
何かを垂らされそれが眼に入って
激痛が俺を目覚めさせ、飛びあがらせた。
「あら、そんなに痛いの?」
「めちゃくちゃ痛いっす!冗談抜きでスゲー痛い!
……ってあれ?」
俺はかすむ目をこすりながら前を向くと、
何処かで見た事のある人が居た。
「また逢ったわね坊や」
うーん。
この絶世の美女に逢うのは二回目だが、
相変わらず凄まじい威厳を感じる。
「元々規格外なのだから、縁があったら
というのも変な話よね」
「あ、魔法どうもでした」
「あら気付いたの?」
「勿論。忘れない声ですから」
「ふふ、有難う。
でもね、あまりお世辞を言い続けると、
あちらにいる女の子達が怒るわよ?」
「いえ、本当にあれが無ければ
俺はとうにくたばってましたし」
「そう言ってくれると嬉しいわ。
で、今回貴方を呼んだのは他でもないわ」
「あの王の事ですね」
「そう言う事。あれはもう規格外というよりも、
新たな魔神になろうとしている」
「ちなみに神と魔神の間でも、
ああいう存在はダメだという意見で一致したんですか?」
絶世の美女は眼を見開いて驚くと
「神様が人々の前にずっと居るのは反則よね」
と笑って答えた。
それはそうだ。
「で、あの激痛は何だったんです?」
俺はその正体が知りたくて聞いてみる。
「それは……」
「それは我が話そう」
別の方向から声が飛んでくる。
その声は威厳と言うか威圧感を帯びていた。
「初めまして規格外。どうかな?心眼の滴を受けた心地は」
横を向くと、そこには縁なし丸眼鏡を掛け、
長い銀髪に月桂樹を被り、黒いファーの付いたローブに身を包んだ
男が立っていた。
「ちょっと、アンタがここで出て来たらダメじゃない」
「そうは言うがな、事は急を要する。
今さら何を派遣してもこれを使う方が早いのは
先刻話し合った通りだ」
「何か魔神みたいな人ですね」
俺は思った事をそのまま口に出す。
するとその銀髪の男はニヒルに笑った。
カッコつけるのが様になるタイプだ。
おっさんにはまぶしい。
「生まれ持った資質は元の世界で巧く使えぬのに、
ここへ来たら発揮できるとはな。
確か戦国時代にもそういった者が居たな」
「そうね、統一が成った後に生まれた者が居たわね。
統一前なら子供の誰よりも活躍できたのにね」
「そう言った意味でも貴様がここに来たのは
必然だったのかもしれぬ。
あちらでは要らなくとも、こちらでは要る」
「……人を物みたいに言わないでくださいよ」
「すまんな。お前と同じで考えた事は
口に出てしまうタイプなのだ」
銀髪の男はそう言うと、俺の顎を掴み顔を寄せる。
「ちょっ!」
「黙れ。息をかけるな」
暫く俺の眼をジッと見た後、
漸く解放される。
「どうやら成功の様だ。
確率的に5%程度だったのに、悪運の強い奴だ」
「はぁ!?」
「ちょっとばらしたらダメじゃない」
5%の確率って低すぎるよね!?
失敗したらどうなってたの俺!?
この最終局面でそんな博打を勝手に打つな!
「しかしまぁこれで五分になるかどうかだな」
「それは問題無いでしょう。
ただ見えるだけじゃないからね。
確率5%は伊達じゃないわ」
「すいません5%繰り返さないでください。
魂が抜けそうです」
この人たち悪質だ。
性質が悪いなんてもんじゃない!
「どうやら理解が早くて助かる。
お前の予想通り我は性質の悪い者共の頭目だ」
「……新しい魔神誕生を阻止したら
さぞや良いご褒美がもらえるんでしょうね?」
「良い度胸だ小僧。お前が勝てたなら
我が直々に褒美をやる。精々励めよ」
こいつ……
「はいはいストーップ。そこまでよ。
ここで暴れたら二人とも消える事になるわよ」
絶世の美女が間に入り、銀髪は興を削がれたのか
「ふん、まぁ良い。兎に角トップ同士の
久々の会談は楽しめた。
それだけでもあれの存在は価値を得た。
キッチリ後始末は頼んだぞ小僧。
お前の働き次第によっては褒美の件は確約してやる」
「気に食わねぇ」
「我は気に入った」
ニヤリと笑い、銀髪の男は霧のように消えて行った。
ったく何で二枚目っていうのは
ああもカッコつけたがるんだかな。
「坊やもへそを曲げてないで、気を引き締めなさい」
「……そうっすね。やらないと俺が今守りたい者を護れない」
「そういう事よ。貴方には特別に力を与えたのだけど、
あの魔族達が考えるよりもあの王はもっと悪魔だった。
そしてその絶望は身の丈よりも更に上を望んだ。
貴方にこれだけ与えても足りるかどうか解らない。
でもこれ以上は過干渉になるし、相手がルールを破ったから
と言ってこっちも付き合ったら負けじゃない?」
「大分破ってるような気もしますが」
「貴方は神では無いわ。そしてそこまでの力も無い。
殺されれば死ぬわ。だから期待するのよコウ。
人として、あの悪魔を退けられるか。
試されるのは人としての力。それを忘れないで。
貴方はもう一人では無い」
俺はその言葉聞きながら意識が遠退いていくのだった。
人……。
人としての力。
その言葉を繰り返す度に何故だか目頭が熱くなる。
そんなもの今までない。
人を恐れ
人を蔑み
人を遠ざけ
人から逃げた。
そんな俺に人の力はあるのか……。
この世界に来てから、俺は変われたのだろうか。
落ちる意識の中で自問自答し答えを出せずにいた。
絶望に落ち悪魔に手を伸ばし、空を掴もうとした男と
絶望に落ち引きこもり遠ざけ、
新たな繋がりを持ち地を歩く男の
最後の闘いの幕が挙がる。




