拒絶するもの
「そう、小麦。この先一面全部小麦だ」
「それでラーメンか。しかしなんで小麦だけ」
「偶々小麦だけ見逃されただけなんだ。
それまではまさに地獄絵図だった。
雑草から昆虫まで食べつくし、
結局食べるものが無くなって……」
まぁそれ以上聞かなくても解る。
なるほどねぇ……。
「そんな状況になってるんだったら、
食料を確保するために殺しあうしかないな。
そして何れは滅びる。シナリオ通りだ」
「そう。それでラグナロクが起こる可能性が
減ったわけだ。だからオーディンは下の世界を
悠々動けたりしてたんだ」
「スルトは何処にいる?」
俺がそういうと、ロキは地面を指差す。
スルトが熱源になっているのか?
「スルトも世界を作る一部として、
地核の一部になってる。そうなるよう仕向けたのも
オーディンだ。そしてそれを監視してる奴がいる」
「見逃されたって言うのに関係があるのか?」
「大いに。ここだけ小麦が生えてることにもね」
こりゃまた面倒なことになってるな。
カグラの話によれば、四つの巨人族は
ラグナロクの責任について遺恨があり、
今も争い続けてるって事だった。
それに関連して食糧問題もあり、
もう引くに引けないところまで来てるんだろう。
「ロキ、ラグナロクは、世界のリセットは行われたのか?」
俺がそう言うと、ロキは無表情になった。
まるでスイッチを切ったように。
俺は取り合えず答えてくれるならどっちでも良いので、
暫く待ってみることにした。
「……全てに答えることは出来ないが、
起きているかいないかで言えば、起きている」
「それは後者のみって事ですか?」
「答えられない。ただラグナロクが起これば
どうなるか考えれば答えが出ると思う」
「ありがとうございました」
俺がお礼を言うと、ロキにスイッチが入る。
「お疲れ様」
「いや。これは僕の独断じゃ出来ない事だから、
問い合わせたまで。僕はあくまで僕だし、
彼も過剰に干渉は出来ない」
「まぁ言うなれば干渉するまでもないって事でも
ある訳だな」
俺の問いには答えない。
「ここを抑えてる巨人族に会いに行かないとなぁ」
「そうだね。先ずはここにいる奴がどんなやつだか
見ておくのも悪くない」
「……どっちでも良いって感じだな」
「巨人族がどんなものか知る意味では行くのは有りだけど、
基本方針は変わらないと思うよ」
「嫌な予感が終わらない」
「君の予感は外れてないと思う」
気が重いなぁ……。
俺は一つ溜息を吐いて空を見上げる。
ロキはそのまま小麦の中を歩き始めた。
俺も覚悟を決めて歩き始める。
さっきの街の感じとここだけある小麦畑。
争え、もっと争えと言わんばかりだ。
食糧不足ならどんな手を使ってでも
この地を手にしたいはずだ。
暫く小麦畑を歩き続け、山道を登りきった。
見下ろす限り一面小麦畑だが、その中に
違和感のある建物が建っている。
「こうしてみると自然の中にあれは異質だな」
「そうだね。まるでメッセージのようだ」
この地に巨人は必要ない滅ぶべし、か。
参ったなぁ。もっと解りやすい無双ものかと思ったのになぁ。
俺は肩を落としつつ小麦の中をロキに続いて歩く。
「なんだ貴様たちは」
この大陸の巨人達はやはりガタイが良いようだ。
上半身は裸で肩当のみ、腰周りに鉄の鎧を付けた門兵が
二名立っていたがガタイが良い。
顔もゴツイので今のところ見分けがつかない。
「やあ。悪いけど王に合わせてくれないか?」
そうロキが言うと、門兵は声を上げて笑った。
まぁそらそうだろ。見たことも無い奴が王に合わせろって
言ってきたんだからなぁ。さてどうしようか。




