マニュアルも人次第
「まぁ何でもいいけどラーメン二つ」
「困るなぁ注文しないなら出て行ってくれ!」
「……は?」
「困るなぁ注文しないなら出」
「いやだからラーメンを」
「水はサービスになっております!ご注文を!」
「……ラーメン」
「ラーメンならあります!」
「だからラーメン」
「困るなぁ注文しな」
まさに地獄……!壊れたCD、
またはリンゴループのように同じところを繰り返す。
こっちの話は一切聞いてない。
「えーせーへー!」
「君までバグら無いでくれ」
「コイツ同じ型なのか?」
「これがマニュアルだ」
「んなわきゃない。会話になってないじゃないか」
「何を間違えたのか」
「最初にカウンターに座ったからじゃないか?」
というかマニュアルというならそれ以外に無い。
そしてここにはカウンターしかない。回転寿司か!
「ならやり直そう。埒が明かない」
「OK」
俺とロキは一回出た。そして入りなおす。
「へいらっしゃい!どこでもお好きなお席へおかけになって!」
平屋の中の壁際に寄り掛かる。
「お客さんカウンターへどうぞ!」
ロキは足を踏み鳴らしてカウンター席へ座る。
「困るなぁ注文しないなら出て行ってくれ!」
「じゃあ水」
「水はサービスになっております!ご注文を!」
「ステーキをくれ」
「困るなぁ注文しないなら出て行ってくれ!」
なんだこの地獄は。正規ルート踏まないと
バグるってどんなクソゲーなんだこいつロボか!?
という顔をして俺の顔を見るロキ。
「……僕も大概我慢強いほうだと思ったけど、
限界が近い」
「意味が無いからね。悪意も敵意も何もないからね」
「無意味な繰り返しほど、命への冒涜はない」
「俺があいつにキレたの解って貰えたかな?」
「十二分に」
俺たちは仕方ないのでもう一度外へ出て、
バグったところまで戻る。そして俺が成功したやり方で
なんとかクリアする。
「ブチギレそうだ……」
「落ち着け。貴重な食料だ」
カウンターが砕かれるんじゃないかと思うほど、
握った拳を震えながらカウンターに押し付けるロキ。
黒い気が溢れ出ている。次何かしたら吹き飛ぶわここ。
「お待ちどう!どうぞどうぞ!こちらのフォークを
使っていただいて!どうだい!この大陸で」
わーすごーい。平屋の中に居たはずなのに、
前に綺麗なお空と荒野が映ってるー。
なんとかとっさにラーメンを庇ったので無事だ。
ロキの分もあるので手渡す。
「まっず!」
ロキは一口すすった後、よく噛んで飲み込み
そう吐き捨てた。不味かろうよ。
「こんなもの貴重な食材に対する冒涜じゃないか!」
「だからゆーたやんかー」
「関西弁止めてくれ。うっわ不味っ!」
「我慢して食べな。貴重なのは変わらないんでしょ?」
「アメリカで食べさせられる寿司のような気分だ」
俺たちはその後黙ってそれを食し、
汁まで飲み干してどんぶりを丁寧に床に置く。
そして手を合わせる。
「「ごちそうさまでした!」」
命を頂いた。小麦粉等々に感謝を込めて。
「なるほど、君が全国展開するに当たっては、
僕も出資する代わりに是非マニュアル作成に協力させて
貰うよ」
「良いぞ。今なら完璧なマニュアルが出来そうだ」
「全自動でルートがほぼ無いとか小説じゃないんだぞ」
「働いてくれる人ってホント大事」
「それに見合う給料を渋るなんてもってのほかだ。
何か大事なことを学んだ気がする」
俺たちは固い握手を交わした。
というかこれは何の話なんだ?と二人で気付いて手を話す。
「まぁ何にしても酷い状況なのは理解したと思う」
「解り過ぎるほどに。頭に来たから内政しようかと思うレベルで」
「良い事だ。腹も不快ながら満たされたところで、
僕たちの敵をご覧に入れよう」
俺とロキは街の中を歩き、反対側の門から外へ出た。
「えぇ……」
そこから絶句である。目の前に広がっているのは、
一面黄金色の世界。荒野ではない。
ロキは少し先に進んで、その黄金色のものを俺に渡す。
「こ、小麦?」




