荒野を行く
昼間は全てが暑く、平屋も蜃気楼かと見間違うほどだったが、
夜はガラッと変わり凍えるほど全てが冷えていた。
家庭用冷凍庫の中に居る気分になる。
どっかが凍れば水分補給の目処も立つだろうが、
冷凍庫のドアを開けっ放しにしてる状態で、
凍る様子も無い。最初は歩いているから平気だったが、
ずっと冷たい風を浴び続けていると体温を奪われてくる。
まさかこれ夜が明けるまで歩く事になるんかな。
俺みたいな引き篭もりたい野望を捨てきれない人間に
対して悟りを期待してるなら間違ってるから、
さっさと街に着きたい……。
歩けども歩けども、景色は多少の岩の配置が
変わるくらいだ。草一つ生えちゃ居ない。
この過酷な状況に草も生えないんだろう。
一瞬巨人族が破壊しつくして回ったのかと
考えたが、幾ら強大な力を持つとは言え、
荒野で草を一つ一つ抜いていくなんてやらないだろう、
という答えに落ち着いた。
その絵を想像したら面白いけど。
そして気付いた。この荒野には生命が、
気が何もない。感じることすら無い、と。
動物の骨も昆虫も何もかも存在していない。
まるで生命の全てを拒否しているような、
進入を拒んでいるような景色が、
遥か先まで進んでいた。
解りやすくない地獄、というものを
表現するならこう言う事を言うのかもしれない。
これはますますなんとかしなきゃならない
気にさせられた。俺がミノさんからあの巨大要塞を
こしらえる方法を聞いたりとかして、
俺の城を作れたとしても、だ。
こんなものを展開されたら何れ滅ぶ。
星の死はそこに住む者たちの死でもある。
恐らく俺がここにいると言うことは、
星は死を望んでいない。本物の、と言っていた
彼も俺の相棒を修正してくれた。
と言うことはオーディンか巨人族か。
どちらかが作り出したものが影響を
与えているのかもしれない。
「つっても何にしても誰かに
会わないことにはなぁ」
色々な不安を振り払うように頭を振る。
そういえば元の世界でも砂漠が広がっていた。
環境破壊による自然の変化。ただここは十四世紀初頭の
文明を基本としているはずだ。火器の出現すら
まだなはず。自然を犯すには早い気がする。
……余計なことを考えすぎてるな。
まだ荒野を少し歩いた程度だ。
もう少し行くと何かあるかもしれない。
考えないようにしつつ歩く。
「やあ、そろそろ限界かな」
幾らこの世界に来て鍛えられたとは言え、
夜が明けて陽が真上に来るまで歩けば、
幻聴すら聞こえてくるかもしれない。
俺はそれに耳を貸さず、どこか身を隠せる場所が
無いかと見回しながら歩く。
この荒野の性質が悪い点は、高い岩も
皆三角推のようになっていて、日除けに使えない。
そして植物も昆虫も無い。雨なんて降りそうも無い
日本晴れ状態。前を見れば蜃気楼、聞けばロキの幻聴。
今まで恵まれた気がしてならない。
「頑張るなら構わないけど、この先大分遠いよ?」
「マジか。もう幻聴でも構わないからヒントくれ」
「ここから右斜め方向へ歩けば街がある。
そこまで頑張っていこう」
声の方向を見るとロキが見える。
相変わらずにやにやしている。
何が楽しいのか……。色々言いたい事はあるが、
一睨みしてから言われた方向へ
向きを変えて歩き出す。
「ついたぁああああああ!!!」
俺は嬉しさのあまり叫んだ。
最初は例の平屋を見たときのような
心境だったが、ちゃんと塀があって家があって
何より人が居る。ああ堪らない。
ちゃんと生きてる気がする!
「はいこれ」
ロキの幻から手渡された水が入ったコップのようなものを、
最初匂いをかぎ、次に少し舐め、次に少し口に含む。
水が五臓六腑に染み渡る。水最高水美味しい。
マジで生き返る……。俺はゆっくり飲み、
途中から一気飲みした。
「っぷはぁっ!沁みるなぁ!」
「有り難味を再確認できたかな?」
「……まさか俺にそれを解らせる為にわざとやったのか?」
「まさか。ただ現状を見て多少は考えてほしかったのはある」




