オアシスを見つけたと思ったらボッタクリ店
多少陽気が柔らかなら良かったが、
徹夜明けのお昼頃並に感じる日の光。
景色はその暑さ故に揺らいでいる。
サウナの中を歩いているような気分になる。
極めつけは風だ。熱風が砂交じりで
吹いてくるもんだから、身に纏うテーブルクロスを
離せない。暑いからいっそ裸になりたい
レベルなのに。
「あっつ……」
心頭滅却すれば、というが滅却するまもなく
暑さという現実が押し寄せてくる。
そして喉が唾液にすらくっ付きそうな位渇いてきた。
「あ……」
若干朦朧としてきたところで、
前方に大きな平屋があった。
看板が付いていて”お食事処”と書いてある。
……ついに幻覚も始まったのか……。
俺は頭を振りつつも進路を変えるのも面倒なので、
そのまま進んだ。あれが現実では無いとしたら、
ただ突き進むだけだし。
「へいらっしゃい!」
ここは商店街の八百屋か、
と突っ込みたくなるような威勢の良い声が、
スイングドアを押して平屋に入るなり飛んできた。
どうやら現実らしい。
「どこでも好きな席へお掛けになって!」
一々声がデカイ。俺はうんざりしつつも
窓際のテーブルに腰掛けた。
「お客さんカウンターへどうぞ!」
好きな席はカウンターではないんだーが。
ガタイが良くてムキムキしてて毛深いおっさんが
俺の横へ来てデカイ声で強制してきた。
これはウザイ。
「あー、座るだけで良いからほっといてくれ。
暫くしたら出て行くから」
「困るなぁ注文しないなら出て行ってくれ!」
「じゃあ水をくれ」
「水はサービスになっております!ご注文を!」
「……アイスくれ」
「ラーメンならあります!」
「じゃあラーメンで」
コイツが敵だと解ったら秒でやるわ。
一々一々声がデカイわ選択肢が無いわ。
こんな場所で商売やるだけあってどうかしてる。
「先払いになっております!」
「いくら?」
「見合う対価を!」
俺は自分のスラックスのポケットを漁る。
初期にギルドで稼いだ中から緊急時用に忍ばせておいた
金貨一枚銀貨二枚があった。
「毎度あり!」
「まて」
「何か!?」
「お前の出してくるものが釣り合うかどうか、
対価として相応しいか決めるのは俺とお前だ。
お前がOKでも俺が釣り合わないとしたらどうする?」
「そんなことはありません!この状況で出されるものは
それと同価値以上かと!」
「面白い。クソマズかったらお前を斬るからな」
「よろこんで!」
大男は俺の有り金を引っ手繰ると、
スキップしながら奥へ下がっていった。
逃げた所でこの荒野。黒隕剣で叩っ斬るまで。
俺はイライラした気持ちを自分で抑えつつ、
ジッと待っていた。
「お待ちどう!」
ドン!とテーブルに置かれるラーメンと水。
これはどこの店でも五百円位で食べられそうな
ナルトとメンマ、ネギというシンプルな物と、
セルフの水。ホントチェーン店は偉大だわ……。
俺が国を持つことになったらチェーン店を
所狭しと作ってやる。接客マニュアルバリバリの
低価格で良心的な店を。
「どうぞどうぞ!」
暫くラーメンと水を見つめながら、
イライラしつつ考えていると、大男は俺を急かして来た。
一々癇に障る野郎だ!と言って殴りかかりたいところだが、
我慢して食べることにする。
「こちらのフォークを使っていただいて!」
なんだろうな。まったく頭にくるぜ……!
ゆっくりと怒りで震えながらフォークを手に取り、
麺を巻いて口に入れる。……これ九十八円位で
売ってる即席麺じゃねーか!
「どうだい!この大陸でこれを流行らせて、
俺は大金持ちになるんだ!」
俺は背に腹は変えられないので黙って食す。
汁まで飲み干したが、俺が作ったほうが絶対に
美味いと言い切れる、即席麺に失礼だと言っても
過言ではないレベルだ。コイツが作ったんだとしたら、
どこの箱入り娘だって感じ。
「どうだい?」
俺はドヤ顔で聞いてくるデカイのに対して、
言葉ではなく星力を纏った鉄拳をボディに叩き込んだ。




