冒険者、覇王と対峙す
アリスを退け、その姉のイーリスを担ぎながら
首都アイルへ向かうおっさん一行。
俺はアリスと共に姉のイーリスと言う魔族を背負い、
首都アイルを目指す。
「コウ!」
「おっちゃん!」
草むらががさがさ動いたのを見て警戒すると
飛び出して来たのはファニーとリムンだった。
あまりに突然の事で口を開けたまま呆然としていると
「魔族ども!コウを離せ!」
「そうだのよ!」
と二人が臨戦態勢に入る。
俺はハッとなり
「待て待て、二人ともどうしてここに!?」
と空いていた左手で手で制止しつつ、
二人に尋ねる。
「お前を助けに来たに決まっておろう!」
「そうだのよ! おっちゃん、アタチの新しい力を見せてあげるだのよ!」
「いやいや待て。取り合えず今は首都に行くのが先決だ。この二人にも手伝ってもらわなければならない」
「魔族の助けなどいらん!」
「だのよ!」
「兎に角急ぐぞ、アリス、走れ!」
「え、あ、解ったわ」
アリスと共にイーリスを担ぎつつ、
ファニーとリムンにも来るよう
促して俺達は森を抜ける。
「……アイツは……」
俺達の目の前に広がっていたのは、鎧の残骸と
姫やリードルシュさん達の倒れた姿だった。
そして中央で立ち尽くす深紅の髪の青年はこちらを向き
「おぉ、遅かったではないか。今しがた雑魚共が息切れした所だぞ。主賓が遅れてくるとは随分と余裕があるのだなそなたは」
そう言いつつほほ笑みながら、
宙を浮いてこちらに近づいてくる。
「あれは何だアリス」
「あいつは、アイゼンリウトの王よ。私達はアイツの願いで魂と命を集めて、アイツにそれを注ぎ込んだの」
「なら一緒に責任とれよな。あんなもの放置しておいたら、この世界そのものが危ないのは魔族でも解るだろ?」
「……許さない……」
今までぐったりしていた、
俺達に担がれていたイーリスが口を開く。
「別にお前に許しを請う言われは無い。ここでお前を亡き者にしてやるのも良いが、折角主賓が到着したのだ。我が用意した舞台へご招待せねばなるまい」
王は気にも留めず、俺にそう告げる。
「用意した舞台だと?」
俺はイーリスが動こうとしたのを
制止して尋ねる。
少しでも時間を稼いで回復させないと、
この先何が待ち受けているか解らない。
「そうだ。お前と我はこの世界にとって規格外、ルールを外れた存在だ。この世界に斯様な存在は二人も要らぬ。ならばどちらが生き残るか、雌雄を決せねばなるまい」
「確かにな。アンタを野放しにするとこの世界がめちゃくちゃになる事位は解る」
上半身裸の王は、何も纏っていない。
だがその静けさが逆に不気味だ。
そして姫やリードルシュさん達を相手に余裕の表情。
こんなものを野放しにすれば、この光景がこの世界の到る所で
見る羽目になる。
それだけは何としても防がなくては。
「理解が早くて良い。ならば我は待っておるぞ、お前と我が最初に顔を合わせた場所で」
「ああ」
「遅れた序でだ。ゆるりと参るが良い。最早我とお前とが闘う事は決まっているのだ。お前が逃げるような輩とも思えんからな。おすすめは夜が明けてからだ。そうすれば魔族は夜よりも力が衰えるのでな」
「その間にお前は何をする気だ?」
「ふふ、そう邪推する事もあるまい。我は言ったはずだ。相応しい舞台は用意したと。これ以上何かをする必要もない。お前が勝ちたければ時機を待つのが最良だ。まぁそれでも今の我に届くかどうかは知らんが」
「余裕で居られるのも今のうちかもしれないぞ?」
俺の言葉を聞いて王は高笑いをする。
「そうであってほしいものだな。何せあれらと戯れていた時は、力を試しようも無かったのでな。察しの良いお前なら気付いておろうが、我はまだ一分も力を出しておらん。多少切り傷は付いたが、今はご覧の通り。お前を待つ間に我は傷の回復にあてた分を回復するだけで良いのだ」
「……解った。必ずお前を倒しに行こう」
「待っておるぞ」
王は不敵な笑みを浮かべながら宙に浮くと、
首都アイルにある城へと飛んで行った。
「凄いなあれは……」
王が去った後、暫くして俺は息を荒くしながら言った。
平静を装ったが、凄まじい力に
内心逃げたい気持ちで一杯だった。
「王は最後の手段を使ったようね。最早何も加える必要が無いから私達は見逃された」
アリスは憎々しげに王の後ろ姿を見て吐き捨てた。
「取り合えず悪いけど門の近くまで行くぞ。仲間が無事か確認したい」
「解ったわ」
アリスの顔を見て言うと、素直に応じてくれた。
イーリスを担ぎながら何とか門の近くに辿り着く。
「おい、今一人で動いた所でどうにもならないと解ってるだろうけど、念を押しておく。大人しくじっとしてろ。でないとあの王の餌になるぞ」
俺はイーリスを下ろして座らせると念を押して、
倒れている姫達の所へ行く。
皆ダメージを受けているが、ギリギリ生きている。
これ以上の戦闘は無理だ。
俺は近くを見るが、城下町は建物はあるが、人の気配はしない。
そこに姫達を置いて行くのは危険がある。
恐らくアリスの言う最後の手段とは、
この街の人たちを生贄として
吸収したと言う事なのだろう。
全てが後手後手だ。
だがもうこれ以上の後手は無い。
王は俺に対して街の人たちを吸収してアドバンテージを持っている。
それがあるからこそ、俺をここで討たず
朝になったら来いと勧めたのだろう。
「コウ、平気か?」
「おっちゃん大丈夫だの?」
アリスとイーリスが離れた所で、
ファニーとリムンが近付いてきた。
「ああ、だけど寝てないから疲れたかな」
「当たり前だ。夜通し戦っていたのだからな。少し眠ると良い」
「そうだのよ。おっちゃん、アタチの新しい力を見てみて!」
そうリムンが言うと、
「我が魔力によりて、紡ぐは安らぎの場、
誰も阻む壁なり。大きく囲いて紡ぎ、
魔力よとうりゃんせ!」
そう言いながら俺達の周りの地面を、
水晶が頭に付いた杖で
トントンとリズム良く叩いて行く。
すると地面からスウッと半透明で
薄緑の壁が出てきて囲まれる。
「ほう、リムン。あの時より大きく囲えるようになったな」
「うん、ここまでに本を読んでおいただのよ」
「有り難い、安心したら眠くなってきた……」
「我の膝を貸してやるから休むが良い。起きたらこれまでで一番の闘いに臨まねばならぬのだからな。良い夢を……」
俺はファニーの声を聞きながら、
ゆっくりと眠りに落ちて行く。
もしかすると眼が覚めたら、
元の引きこもりに戻っているかもしれない。
その方が幸せだと今までなら思っただろうが
今は違う。
あれをこのままにはしておけない。
あれをどうにかしなければ、
この俺が心を通わせる事が出来た
人たちの世界が終わってしまう。
それだけはダメだ。
俺は祈るように眠った。
ついに首都アイル動乱の最終局面を迎え、
不眠不休だったおっさんは眠りにつく。
眼が覚めた時広がるものはなにか。




