空気を読んで綺麗に謝れば割りとなんとかなる
急遽だったからなのか、作りが鍾乳洞なのは同じだったが、
奥に百八十センチはあろうかという、金の縁に赤いクッションが
ついた玉座がある。そこには主である黒髪のショートボブに、
靴が見えないほどの黒いワンピースを着た女性が居た。
「ついに辿り着いた……」
「よう来た」
俺はその女性に近付き、一発軽く頭をはたいた。
「ぬおおおおお!何をしておるか!」
「いや、ついムシュへのノリで……」
絶叫虎人間は元々なんじゃなかろうかと一瞬思ってしまったが、
これは俺が悪い。ついついムシュにやるようにはたいてしまった。
ウリディンガルムに羽交い絞めにされて下がる。
呆気に取られていた彼女は、暫くすると真顔になり
羽交い絞めにされている俺に近付いて、俺の腕に噛み付いた。
「いって!」
「ひははあはまははふぁふぇんふぇお、はんほほはへはる」
「噛みながら喋るんじゃありません!」
恐らく頭に今は噛み付けないからこのくらいにしておく、
と言っているように聞こえる。怒る目は同じだ。
「は、母上その位で……この者の腕を食べたところで
何の栄養もありません!」
「そうだそうだ!……痛い痛い痛い!」
た、ただ同調しただけなのに更に目を吊り上げて
歯を食い込ませてきた。マジいったい!
「それよりも今後のお話をして頂かないと……!
母上!」
ウリディンガルムは俺を抑えているのは違うと理解し
俺の羽交い絞めを解くと、今度は彼女を羽交い絞めにした。
暫くすると仕方ないと言った目と溜息を吐いて歯を離した。
「ったくマジいってぇ……」
「はっ!その位で済んで有難く思うが良い!」
「あいあい。で、他のティアマトさんは何処に?」
そう言うと彼女はつまらないと言いたげな顔をして
溜息を吐く。ウリディンガルムは眉間に皺を寄せた。
ウリディンガルムは首を横に振った後、羽交い絞めにしている
ティアマトさんの頭を顎で指したあと、口をパクパクしている。
「何!?めんどくさいからイジるなって!?」
俺がそう言った瞬間ティアマトさんは飛び上がり
ウリディンガルムの顎を頭で直撃すると、次は思いっきり屈んで
一本背負いのように地面に頭から背負って突っ込んだ。
これはティアマトさんの方が圧倒的に背が低いから、
ウリディンガルムのみダメージを受けてそうだわ。
ゆっくりとウリディンガルムを背負って顔を上げてきた
ティアマトさんの顔は、悪鬼羅刹も跨いで通る顔をしていた。
俺は生まれて初めて流れるように土下座をした。
「「ごめんなさい!」」
幼稚園児のようにウリディンガルムと背筋を伸ばし、
並んで謝る。玉座に不機嫌そうに座るティアマトさん。
いやぁ困ったなぁ地雷踏み抜いたとは思わなんだ。
口を利いてくれないので、小声でウリディンガルムに
問いかける。
「どうする?」
「だから言ったのだ!気難しい故余計なことを言うなと!」
「いやあれはそっちが悪くない?」
「悪い訳なかろうが!お前が俺の口の動きを声に出して読まなければ」
「別の言葉で声出して言えば良かったじゃないか」
「他に何と言えば良いのだ!」
「煩わしいーとか、やっかいーとか、人泣かせーとか、
鼻つまみーとか」
「あー……っておい、それ気難しいより酷くね!?」
「ン”ン”ン”ン”ン”ン”ン”!」
「「せーの、すみませんでした!」」
俺たちはまた悪鬼羅刹もご遠慮する顔をしたティアマトさんに
声をそろえて謝り、更に流れるように並んで土下座をしたのであった。




