修行の終わり
個人的にいきなり切り結ぶのかと思いきや、
見合っている。ウリディンガルムの方は今も
二カッと笑ったままである。子供か。
俺は相棒二振りの切っ先を其々下へ向けたまま。
あの馬鹿力満点の一撃を受け止める気は無い。
攻撃してきたら相手の斧部分を引っ叩こうと、
右の逆袈裟で行く為に切っ先を下にしている。
どうも妙な癖で、左右袈裟で行けばいいものを、
右袈裟左逆袈裟にしてしまう時がある。
通常であれば肩を痛めそうなものだが、
肩と肘、そして手首の筋肉が柔軟なのか、
痛めたことは無い。全然良い癖ではないし利点もないけど。
「隙有!」
高速且つ重い振り降しが来る。
勿論隙はあったんだけど、体格や筋肉の問題から動作に
移るまでの時間が多すぎて、ほぼ隙は無くなる。
俺は思い切り斧部分を右側から黒隕剣で引っ叩く。
星力も纏っているので、例えどんな馬鹿力であろうとも、
別方向から引っ叩けば
「何!?」
あっさりバランスを崩すまでズラされて
「つあっ!」
俺の黒刻剣と寝転がりながら
ご対面となる。
「ガラじゃないけど浮かれすぎでは?」
あと指一つ分位で食い込むっていう距離で止めた後、
そう告げた。相変わらず笑顔のままだが、
ここからどうやっても逆転出来ないと思うんだけど。
「ふふ、だが斬れまい?」
「斬らなきゃ終わらない感じか……」
「貴様には出来まい。貴様のよう」
「ていや」
「あああああああああああ!」
どうやら俺の鼓膜が勝ったらしい。
何か言いかけていたが、俺を何だと思っているのか。
そういう小奇麗な存在をご希望なら高校生辺りが主人公の
話を当たるが宜しかろうなのだ。
俺が棒読みで言いながら振り下ろした切り口から、
光の粒子が漏れる。
「ふっ……どうやら俺は見誤ったようだな」
「成仏してくれ」
「いや死なんから。それに本体の俺なら
もっとやり合えた筈なんだ……」
俺がそれを聞いて蹴りを入れようとしたが、
それより早く誰かが蹴りを入れた。
消えながら吹っ飛ぶ絶叫虎人間。
「なんだ、やっぱ別人か」
「悪いな直に自分の目の前で力を見たくてな」
「ならアンタが正真正銘の?」
「そうだ。我がお前と最初に会ったウリディンガルムだ」
容姿が全く同じなのでよく解らん。絶叫しないところは
有難いんだけど。
「じゃあ最後の修行を改めてやりますか」
「いいや十分だ」
あれ、と思って体が自然とこけた様に
前のめりなった。どういうこっちゃ。
「正直力はあっちが上なのでな。兵を率いてこそ我は生きる」
「アンタも十分強いと思うんだが」
「当然だろう。ひ弱な将帥など物笑いの種にしかならん。
が、一個の”武”という点において、お主に敵わん事は
今見せてもらって納得がいった。……まぁ剣を交わしたくない
事はないんだが、そう悠長な時間は無いから仕方なし」
残念そうに言うと、首を振って奥へと歩き出す。
「さぁ来るがいい。母上がお待ちだ」
「いよいよ修行も終わりでダンジョンクリアか」
「さてな。だが合格は合格だ。来るが良い。
このダンジョンの支援者にして主、我らが母であり
この大地のバランサーでもある、ティアマトに
逢わせてやろう」
一応向こうの街で一瞬逢った事があるんで
久々の再会ではある。本体の方とは。
俺はウリディンガルムの行った方へと足を進める。
「失礼のないようにな。あれで気難しい」
「気難しいの?めんどくさいんじゃなく?」
「だから気難しいといってるんだ。
それに一度手痛い敗戦を強いられて、
尚且つまたこの有様なものでな。拗ねておられる」
「……大変だな。気苦労が絶えないだろう」
「ここ最近はマシになったんで俺も一息吐けたよ。
こういうところに閉じこもるのは彼女の元からの
趣味もあって、仕方が無いとはいえ機嫌が良いだけ救いだ」
俺はウリディンガルムの苦労を思うと、
労いたくなった。引き篭もりで気難しいという鉄板。
自分の家族もそれは大変だったことだろう
親にも問題があったとしても、だ……。
「何故お前が難しい顔をした後に情けない顔をしている?」
「いや、まぁ、触らない方向で」
「そ、そうか?まぁ何にしてもお陰様で助かった。
この後どうなるかは知らんが頼む」
不吉な言葉を言いながら、二メートル位の高さの、
銀細工で装飾が施された鉄の扉を開けた。




