冒険者達の前に覇王現る
首都アイルで異変が起こる!
そして現れる、黒の王。
迎え撃つ冒険者達!
夜を迎えたアイゼンリウトの首都アイル。
ダンディス達は首都の中へは入らずに、
追撃があるかもしれないと
門の前で待機していた。
それにコウの到着が遅いのも気になっていた。
あれから半日が経つ。
救援に行くかどうか口には出さないものの、皆迷っていた。
「夜になりましたね」
姫が重苦しい空気を絶ち切ろうと口を開く。
「ああ。アイツらが迷って無ければ良いが」
「ファニーが一緒なら平気でしょう。それよりも問題は俺達の後ろだ」
「気味が悪いほど静かだな」
「今日くらいは城下町も静かな夜を迎えたいのでしょう」
姫は不安を振り切るように言う。
その時だった。
地面が唸りを上げる。
「地震か!?」
「いや、前の方は揺れて無い。揺れているのは」
「城周辺ですね!」
「待て!」
城下町に入ろうとする姫をリードルシュは制止する。
「何か嫌な予感がする。治まるまで待て」
「しかし城下の人々が」
中を除くと異変に気付いた市民達が、
それぞれの家から外へ出て門へと向かってきた。
それを誘導するべく姫は手を振る。
市民はその姿を見て安堵し、門へと走る。
後一歩と言う所で、地面に市民達は吸い込まれていく。
「手を!」
姫は近い人だけでも救おうとしたが、何かが飛んできて
それを遮る。
絶望に満ちた市民の顔を、姫は涙を流しながら
見送るしかなかった。
そして完全に飲み込まれると、飛んできた方向を見る。
「余計な事をするでない。これはほんの始まりに
すぎぬのだから」
中に浮かぶ者は姫にそう告げる。
「お前は誰だ!?」
「ほう、よもや父親の顔も忘れたと見える……と言う事も無いか。何せ今の我は身体の絶頂期に戻り、あの頃より精強になったのだから解らぬのも無理は無い」
姫はその輝く深紅の髪に細面の精悍な青年が
誰なのか解らなかったが、
父親と言う言葉を聞いて
「ま、まさか父上なのですか!?」
「ああ、お前も兄も我が手で育てて居ないのだから、我のこの姿を知らぬのも無理からぬことよな。そなたとキチンと会ったのは生まれた時と、成長して戦場に赴く事になった時だったな。記憶にあるのは白髪の我だけ」
王は上半身裸で宙に浮いていたが、門の手前に降り立つ。
黒い炎を纏っては居ないが、その何もない静けさに、
戦闘経験の多いダンディス達は金縛りにあったように動けなかった。
「ふむ。流石だの。我を見て動かないのは流石歴戦の勇者たちだ。不用意に動けばお前達の首が飛んでいよう」
王は顎をさすりながらニタリと笑う。
「さて、我は主賓を迎えるにあたり、相応しき舞台を用意した。だが生憎主賓は不在の様だな。よもやあの程度の魔族相手に後れを取るまいが、そなたたち呼んでまいれ。我が十全な状態で全力を出しても壊れぬ相手は、そなたたちでは力不足だ。今我は気分が良い。逃亡を許すぞ?」
「父上……どうなさったのですか!? このような事をして、自らの民に一体何をしようと言うのですか!?」
「どうにもなっておらん。元々こういう人間……もとい魔族なのだからな。民など我にとっては贄よ。王に捧げるのであれば、民も満足だろうよ」
ふふふと不敵に笑う王に対して、
姫は涙しつつも竜槍を指すつもりで
突き出した。
「良い突きだ。流石武勇においては我が父に匹敵すると言われるだけのものがある。だが何度も言わすでない。そなたたちでは力不足だと言っているのだ」
竜槍は王の手前で阻まれた。
見えない何かによって。
「……どうやら言っても解らんようだな」
王は見下した眼で姫達を見る。
誰一人として場を去ろうとせず、武器を抜いたからだ。
「愚かな……ならばその身で知るが良い。我こそは覇王なり」
言葉が終わると同時にダンディスが斬り込む。
涼しい顔をしてその姿をポケットに手を突っ込みながら、
冷笑しつつ見る王。
背後に回ったリードルシュは抜刀術を連続して叩きつける。
だが王は振り返りもしない。
「うおぉぉっ!」
その叫び声と共にダンディスの背後からビッドが、
ハンマーを降りかぶり突進してきた。
そして力の限り叩きつける。
「うむ。良い心地だ。そして狙いも悪くない。恐らくリードルシュが背後で気を引きつつ、強烈な一撃で我の見えぬものを破壊して、直接傷を負わせようという狙いだったのだろうが」
まるで埃を払うように、王はビッドの
ハンマーを払うと、ビッドは森の入口付近まで
吹き飛ばされた。
「最初に言ったはずだ。お前たちでは力不足なのだ。主賓なら可能性は一分位あったであろうに。お前達は自ら命を捨てに来たのだぞ?勝てる戦を捨てたのだ」
王は哀れそうに言いながら、ダンディスの首を掴むと、
地面に叩きつけて頭を突っ込ませた。
そして襲いかかってきたリードルシュの斬撃を全てかわし、
ドアを足で開けるような風でリードルシュの腹を押す。
砂煙を上げて吹き飛ばされるリードルシュ。
「貰った!」
その一瞬の隙を突いて、姫は竜槍で突く。
すれすれでかわされ、王はその竜槍を脇に挟むと
「そう言えばお前とは遊んでやる事が無かったな。では遊んでやろう。そらそらそら」
高笑いをしながら王は竜槍を脇に挟みつつ、
姫を振りまわす。
そして飽きた後、放り投げた。
「解らぬな……何故無駄な事をする。お前達は一撃も我に入れる事が出来ぬというのに」
王は空を見上げながら、大きなため息を吐いた後
そう言いながら首を横に振る。
「それはどうかな」
吹き飛ばされた姫は、不敵に微笑む。
「何だと?」
王は冷笑し娘を見た後、はっとなる。
脇を見ると、切り傷が付いていた。
「無駄かどうかは我らが決める事だ、王よ」
リードルシュは起き上がりながら構える。
「そう言う事だ。アンタのそれは攻撃すると隙が生まれる」
ダンディスは頭を一生懸命もがいて抜いて言った。
「そういう手合いはその一瞬に攻撃を加えるしかない」
ビッドは森の入口から走ってきつつそう叫ぶ。
「そして私なら、この竜の鱗を用いて作られた竜槍で素早く突けば、ダメージを与えられると踏んだのだ」
姫の言葉を聞き終わるか終わらないか辺りで、
王は爆笑した。
終いには腹を抱えて呼吸困難になる。
「す、凄いなお前達。一瞬でそこまで算段するとは。姫が我の血を継いでいるからというのも加味しての事であろうが……。良い、実に良い。気に入ったぞお前達。主賓には全く及ばぬが、主賓が来るまで我を楽しませよ! 場合によっては我を倒せるかもしれぬぞ!」
王は一頻り笑った後、満面の笑みでそう告げた。
姫を始め一同は王を囲み挑む。
心から待ち焦がれる者の為に、
少しでも道を切り開きたい。
その為に命を掛けた戦いが始まる。
王の隙を突き、一撃加えて活路を見出す。
冒険者達はコウが来るまでに道を開く事が出来るのか!?