テンションが高いって疲れないのか気になる
「まぁこんなものに特化してるっていうと、
もうそれはなんだか解らんものだわな」
「ええ。敢えて言いませんけどね」
「ふふ」
「なんです?」
「いやなに。俺もクルールもお前さんに
それなりに認めてもらえたのかと思ってな」
「ああ、そういえば」
いつの間にか敬語になっていた。
クルールさんにも”さん”付けだし。
そう指摘されると照れるなぁ。
「まぁまぁそれはさて置き、
次がいよいよラストだ」
「ラストなんですか?十一居るはずなのに」
「全員が戦闘を得意としているわけではない。
それに一度敗れれば次は手を変えるものだ。
何しろ今度は前回とは立場が大違いだ。
張り切らん訳が無い」
「ウリディンガルムですね」
「そういう事だ。ラストに相応しい能力を持っている。
賢人がムキムキの筋肉マンだとしたら割と怖いだろ?
それだ」
「割とどころか恐怖そのものじゃないですか」
「やり合えばわか」
ラハム様が言い終わらないうちに、
奥から雄たけびが響いてくる。
「今度こそ間違いないぞ。もしクルールなら焼き魚に
していいから」
「まさか。……え、ホントに無いですよね!?」
「いやだから焼き魚にしたまえよそうなら」
「あんなもん食えませんよ。じゃあ行ってきます」
「おう。野郎に勝ったらついにご対面だ。
だがあんまり身構えずに会えよ」
そう声を掛けられて俺は雄叫びのする方へと
足を進める。ムシュは居なくなっていた。
鍛錬の最後が近付いているということか。
俺は一抹の寂しさはあったものの、
気を引き締めなおして進む。
が、近付けば近付くほど音量がでかくなる。
それこそ上の階が子供の走る音から
大学生の飲み会、そして相撲部屋になったレベルになる。
人様に迷惑を掛けてはいけないのである。
洞穴を抜けるとまた鍾乳洞、と思ったら
ラストらしくギリシアにある神殿のような場所に出る。
しかし所々雄叫びのせいなのかぼろぼろだ。
奥の方に凄まじく行きたくない……。
が、俺に気が付いたらしく、相撲部屋から
軍隊の行進並みの音に騒音がレベルアップした。
嫌だなぁ。
「こんちわ」
恐らく聞こえてないだろうけど、一応声を掛けてみる。
戦うために生えたような牙、相手を見るだけで退けさせるような縞模様、
そして鋭い瞳で口元の弛みの無い、引き締まったドーベルマンのような顔。
体はムッキムキの上に鎧を着て……居たはずだが今は皮の服っぽいもののみだ。
そして手にはハルバード、鉄の棒の先には斧が着いている武器を持っている。
良かった殴り合いじゃなくて……でも最終的には殴り合いになりそうな
そんな気がするよ……。
「嫌だなぁ」
「嫌だとは何事だあああああ!」
この人叫ぶのが基本なのだろうか。そういうの嫌なんだよなぁ。
「む……すまんな興奮しすぎたようだ」
「まったくだ」
「こんなにも心躍る戦いをするのは初めてでな。
我が誕生したのは今回が初めてではあり
前回は二つの存在であったが、決まり事の様に
勝ち目の無い戦いを強いられて負けた。
しかし今回は全く違う。リベンジどころではない。
官軍になるというのはどういう心持なのかと思ったが、
これほどの美酒にも似た心地とはしらなんだ。
……ああ酒など嗜んだ事は無かったな、生まれたばかりだからな!
あはははははは!」
最初と全然違う感じで警戒に喋り倒しておる。
まぁ最初の戦いはマルドゥクに倒される定めだったから、
今回は嬉しいのかも知らん。テンションマックス状態である。
「ああ勇者の旗の下に母とともに駆け抜ける戦場とは
どれほどのものか、早く味わいたい!故にさっさと
修行という名のただの力自慢をしようではないか!」
「あの、力自慢ではないんすけど」
「細かい事は気にするな!」
気にするだろ。力自慢な訳が無い。体つき見れば解るだろ。
「さぁ始めようぞ!我こそは今度こそ勝ち確のティアマト軍に合って
最高にして至高の筋力を持つ漢!ウリディンガルム!圧して参る!」




