螺旋描く海原(トリアイナ)
「先ずは腕試しって事で」
そうクルールさんが言うと、三又の槍を槍投げをするように、
前方斜め上へと構える。
「螺旋描く海原」
おいおいいきなり必殺か!?
クルールさんは上空へ向けて三又の槍を放り投げた。
俺は相棒二振りを急いで引き抜いて星力を纏う。
上空を見ると、三又の槍は俺の眉間寸前まで来ていた。
角度は斜め四五度で来ている。首を左へぐるんとひねると同時に、
左足を右足踵後ろへと引いて体をスマートにひねる。
「とろいぜ!」
クルールさんの言葉の意味が分からず、槍の行く先を見る。
槍は俺を通り過ぎて地面を突き刺していた。
あっという間に地面から水が渦を巻いて噴出す。
なるほどね。魚人間のクルールさんが自由に動けて且つ
真価を発揮するならこのフィールド以外ないだろう。
鍾乳洞は全面水に覆われた。粋な計らいなのかクルールさんの
心象風景が反映されているのか、魚まで泳いでいる。
星力のおかげで息は今のところ大丈夫だ。
ただし酸素を生成するような機能があるか。
「今は無理じゃないか?必要があるとも思えないしな」
今は……必要があると承認されれば追加される機能なのか。
誰に?
「まぁ俺からのサービスだ」
そう上空だったところに漂うクルールさんが言うと、
地面からわかめなどの海藻が生えてきた。
なるほどここから微量だけど発生する酸素を取り入れろってことか。
だから木漏れ日みたいなのが差し込んでいるわけだ。
最初から計算されている。元々そういう場所なのか……?
「余計な事を考える時間はやらねぇよ!」
気が逸れた瞬間、殆ど一瞬だけどそれを狙われた。
そしてまだ修正が出来ていなかった。クルールさんの早さは
ここまで出会った誰よりも早かった。鳩尾から少しずらせはしたが、
そのまま壁に激突してしまった。ダメージはでかい。
腹を抱えて咽たいところだが、そうもいかない。
「にがさねぇ!」
声に反応して剣撃の幕を張る。
「そんな一時凌ぎで捌けないぜ!?」
これでも剣撃の速度には自信があった。
だが水の中という圧倒的なアドバンテージを持つクルールさんには、
余裕で掻い潜る事が出来るようだ。空いた腕から下の側面を直撃され
吹き飛ばされる。無駄に酸素が消費される。
「おいおい、俺に本気を出させといてこんな無様に終わるつもりか?!
それとも水引っ込めて手ぇ抜いてやろうか!?」
明らかな挑発とも取れるが、事実今それくらい酷い。
海に耐性が無い。唯一カナヅチでは無かった事が幸いという程度だ。
星力の干渉で俺自身は濡れたりしていない。ただスウェットを来て
海に居る程度のレベルなので、抵抗は受けている。これを何とかして
解消しないととてもじゃないが当たらない。
「まぁもうちっと気張れや。だがここはお前の世界じゃない。
俺様の世界だ!俺様の有利に働くに決まってんだろ!?」
前方斜め上で腰に手を当ててふんぞり返るクルールさん。
……確かにその通りだ。ここで有利に動こうというのが
そもそも間違いだ。対等になる事さえ無理がある。
クルールさんの世界……。
「おっと今一瞬考えた事は正解ではあるが間違いだ」
クルールさんはあっという間に三又の槍の傍へと移動する。
「ちなみに持たせてやってもいいが、意味無いぜ?」
引き抜いてそれを俺に持たせる。確かに装飾がシンプルで銀の
普通の三又の槍に感じる。
「残念なお知らせも」
クルールさんが手をかざすと、同じものが現れ手に収まる。
「良いんですか?そんな大盤振る舞い」
「あ?別に良いよ」
神に仕える魚。流石だな。賢くなきゃボケられないってことね。
クルールさんの槍に意味はあまりない。もう展開した後で、
クルールさん自体の魔力でこのフィールドを形成している。
恐らくそれしかできない。だがこれだけで十分圧倒できる。
……魔力の消費によって不可侵ではないものの、有利になる場を
生成……。
「何かに気付いたか?」
その問いにはっとなる。つくづく教えたがりが多い。




