さ○なくんサンは凄い人
「あ、ごめん」
「棒読みで誤るな!あと少しで死んでたわ!」
俺はそっけない感じで謝罪した。
そしてキレる魚人間。
「てかクルールさんどうしたんすか」
「いやどうしたんすかじゃねーよ。修行つけにきたんだよ」
「あ、間に合ってます」
「あ、そうですかすいませーん……ておい!」
ベッタベタのノリ突っ込みを展開した。
クルールさんこと魚人間はご満悦なようで、
くびれの無い恐らく腰であろう部分に手を当て、
胸を張っている。
取り合えず真面目にやるつもりがなさそうなので、
俺はさっさと次へ行こうと思い、先に進む。
「ふふーんどうよ?」
……何がどうよなのかと言いたいところだが、
洞穴がない。マジか……クリアしないと出現しないのね。
「さぁさぁ純情に立ち会えこんちくしょう!」
純情に立ち会えとはなんだ。どこかの誰かに告白するから
立ち会えとでもいうのだろうか。……あれ、想像したらかなり
こっぱずかしいというか嫌だわ。
クルールさんもとい、この魚人間荒れそうだし。
「いや突っ込めよ……」
暫く黙ってぼーっと突っ立っていると、
偉そうにしていた顔だったのが、やっと間違いに気づいたらしく、
顔を赤くして口をぱくぱくさせながら俺を睨み、
無反応でいるとやがて俯いて、絞り出すように非難した。
見ていて飽きないんだーが。
「おい!反応くらいしろ!ノーリアクションてありえないだろ!」
「あ、はい」
「その言い方やめろよ!」
面白いが埒が明かないので、普通に対応する事にしよう。
「ラハム様はどこです?」
「あ!?ラハム様は今関係ねーだろ」
「そこキレるとこですか?」
「俺様が直々に修行つけてやるっていってんだよ!
ありがたく思えよ小僧!」
「はいはい。で、さ○なくんさんは俺の仲間に修行付けて
くれてたのは良いんですか?」
「ぎょ!って誰がさ○なくんだ!しかもなんでさん付けだ!」
「ああ見えてホント凄い人なんすよさ○なくんさんて」
「いやいやいや今さ○なくんの話なんか
これっぽっちもしてないだろ!?お前は馬鹿か!?」
「そういえばこの前も番組で魚の美味しい食べ方を……」
「しつこいな!もうヤローの話はいいんだよ!しかも魚の食べ方って
俺を食うつもりかこの野郎!」
「……おい……さ○なくんさんをヤローとか何様だこの野郎っ!」
「あ、ご、ごめんなさい……え、あ、いやいやいや違うだろ!
さ○なくんは凄い人だと思うけどさ、お前に謝る必要はないだろ!」
「あ、ごめん」
「あ、ごめんじゃねーよ!お前それ気に入ってんのか!?」
「あ、ごめん」
「しつっけーなこの野郎!」
「野郎とはなんだこの野郎!」
「なんだこの野郎!?」
ムシュを下において、俺はクルールさんと小競り合いを始める。
いかん、いかんよ……。普通に対応しようとしたのに、クルールさんが
ノリが良すぎてスイッチが入ってしまう。話が進まない。
「まっまさか、お笑いの流れをぶった斬る事が出来るかの修行!?」
俺がわざとらしくよろめきうろたえた風を装いながら言うと、
「ふっ、気づいてしまいましたか坊ちゃん」
とノリ良く悪い顔をしたクルールさん。
「んなわけあるか」
俺はそう突っ込んだ後、左拳を右手で被せ、
左足を後ろに引いて腰を捻って少し溜めを作った後に
全力で鳩尾らしき部分へ叩きこんだ。
声も無く崩れるクルールさん。
でもたぶんこの程度でどうにかなるもんでもない。
何しろ俺の拳がめっちゃ痛い。
「自分でゴングならしたんだ、文句言うなよ?」
「突っ込み役が不在なんでね。で、少しは本気を出してもらえそうですか?」
「ああ。まさかここまで強いとはな。正直ビビったわ」
体を起こしたクルールさんを見ると、腹の辺りの鱗が大きくなっている。
この大きさ。マツカサっぽいな。
「マツカサウオです?」
「流石よく知ってるな。だが一つと思うなよ?神に仕えし魚の泳ぎ、
本気の俺様を見せてやる」
俺から距離を取ると、手を空にかざした。
そして空間から現れる三又の槍。




