人を狩るモノ
アイツはただの獣じゃない。頭がキレる獣だし、
何よりヤバいと思ったのは、アイツは人を獲物としていた事がある。
人って限定したけど、細かく言えば人型の生き物だろう。
ある程度人の動きに対処できるくらいの経験を有していればこそ、
最初の前方だけでなく後方に三本配置して打ち漏らしがないように、
且つ失敗した場合に倒す為に戻ってくる可能性を考慮して、
受けたダメージ以上にダメージがあると思わせる演技までしている。
こうなってくるとこっちとしても同じように突っ込むのは愚策。
ただし考え込むとドツボだし、今は長引かせても
こちらに良い事も無い。ツイてることに魔法は使えなくなっても
俺には相棒が二振りと星力がある。
「いけっ!」
ブーメランを放るように最初に黒隕剣を、次に黒刻剣を
大砲恐竜に向かって投擲した。相棒たちは山なりに、左右から交差するように
大砲恐竜へと飛んでいく。黒隕剣は俺から向かって中央の
首の根元付近に刺さった。これが予想外に痛かったらしく、
いやひょっとしたら刺さると思っていなかったのか、目を見開いて慌てて
回避しようとしだした。これを俺は見逃さない。これは演技ではない。
黒刻剣は黒隕剣の反対側付近に刺さるべく飛んでいたが、
それを銀の筒で払われる。
「っしゃ!」
俺は払われた黒刻剣を取るべく飛びあがって手を伸ばす。
左手に黒刻剣が戻って納まってくれた。
それを両手で握り、体を弓なりにして振り上げる。
「くらえ!!」
俺は落下速度と俺の体重、星力に黒刻剣の力を全て籠めて
大砲恐竜へ叩きつけた。大砲恐竜は一瞬下がろうとしたが、顔を歪めてかわせなかった。
恐らく黒隕剣が上手く剣身を更に深く突き刺すなどしてくれたんだろう。
本来黒刻剣が刺さろうとしていたところへ
大きな切り傷ができる。そこからは血ではなく光が漏れていた。
ただ致命傷ではないだろう。痛みはあるだろうが倒れる様子がない。
聞こえはしないが口を大きく開けて音の振動が伝わる。
黒隕剣も傷口を広げてから俺の手の中に戻ってきてくれた。
と同時に全力で穴の入口まで戻る。ただし後ろ走りだ。
何しろ音が聞こえないから弾丸がわからない。
後ろから撃たれたらひとたまりもない。
大砲恐竜は俺の逃げる方向を勿論読んでいる。
だがまだそこへは撃ちこまない。敢えて左右や前に撃つ。
そして斜め左右前後ろにも忘れず撃ちこむ。
嫌らしいやり方だが、ゴールは分かっている。
確実に仕留めるならこの方法が効果的だろうし、
アイツはこの方法で仕留めた相手がいるんだろう。
怒ってはいるが焦ってはいない目をしている。
真面目にラスボスレベルの敵なんだろうなぁと思った。
スーファミ時代なら間違いなくラスボスである。
「残念」
そう、恐らく大砲恐竜が対峙した事のある相手は、
俺のようなタイプはいないはずだ。
元々強いか特定条件を満たして強化されるか、
良くてその範囲だろう。自分で言うのもなんだが
今の俺はそれとはちょっと違う。
道を変えずさっきの穴の場所へと走ったし、
大砲恐竜も止めを刺そうとしただろう。
そして恐らく急に進路を変えたとしても対応できるような
広い範囲での砲撃を考えていただろう。
俺は後二、三歩で辿り着くくらいの位置で、
星力を全力で解放して地面を蹴り弾丸の様に大砲恐竜へと
突っ込んでいった。




