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冒険者、更に覚醒す

リードルシュたちを送りだしたコウは、上位魔族であるアリスと

戦闘を開始していた。

昼から夕方に移り変わり、迎えるは夜。

決着は如何に!?

「はぁっ!」

「はい♪」


 まるで子供相手に遊ぶように、俺の斬撃をいなす。

黒隕剣はビルゴの魔剣を打ち破った形態にはなっていない。

恐らくまだその時ではないのだろう。

疲れが少ししか無い事を考えると、省エネモードを習得したの

かもしれない。

だが斬れない。

斬るつもりで攻撃している。

でなければ殺られる。

斬りかかっては下がり、黒い衝撃波をかわしては斬り

それを繰り返しているのにダメージが無い。


「神の吐息ゴッドブレス


 苦し紛れに魔法を使ってみる。

魔族は初めて防御の体勢を取る。

両腕を顔の前でクロスさせ防ぐ。

そして風は魔族を後ろへ下がらせる。


「づあっ!」


 俺は間髪をいれず、ジャンプして斬りかかった。

それをかわして横へ跳ぶ魔族。

もしかして……。

俺はもう一度


「神の吐息ゴッドブレス


 と唱える。

読みが当たり、魔族はもう一度防御する。

ダメージを与えられている!?

これはチャンスだと思いたたみかける。


「……くっ!」


 魔族は回転し、俺の攻撃を弾く。

しかし羽に切り傷が残っていた。


「やるじゃない……。まさか神聖魔法を使ってくるとはね。

どうやら情報と少し違うようだわ。

そろそろ私も本気を出させてもらおうかしら」


 魔族は頬に流れた冷や汗を拭い、身構える。


「おい、遊ぶだけじゃないのか?」

「面倒だから殺す事にするわ。

貴方が死んだところで問題無いもの」


 そう言い終わるや否や、魔族は視界から消える。


「遅いわ」


 背後から声がする。

黒隕剣は背後へ剣を背負うような形へ動いた。

カン、という軽い音共に攻撃を防いでくれた。

あの纏っていた黒い炎が消せれば、この魔族は倒せる。

そう黒隕剣が言ったような気がした。

ならばチャンスだ。


「神の吐息ゴッドブレス


 俺は振り向きざまにそう唱える。

見事直撃し木へ叩きつけられる魔族。


「ホント凄いわオジサン。でも今一歩遅かったわね」


 魔族は木に寄りかかりつつ態勢を立て直すとそう言って

空を指差した。

空はいつの間にか夕暮れから夜に変わろうとしていた。


「魔族が弱い昼の内に私を討伐するべきだった。

オジサンの剣は判断を誤ったようね。

あのマヌケを打ち破った形態なら私を

倒せたかもしれないのに。可哀想に」


 夕暮れが夜に飲み込まれていくと同時に、

魔族は黒い炎を更に広く纏った。

なんて圧迫感だ。

距離があるのに、下がらざるを得ないほどの力が伝わる。


「貴方にあの街の最後を見せてあげられないのは

残念だけど、私を本気にさせたのだから仕方ないわよね」


 魔族は自らの親指に犬歯を当てて、血を出す。

そしてその血は魔族の周りをぐるぐるととぐろを巻いた。


「黄昏よりいでし魔の力を持て、敵を締めあげん!魔姫血界」


 その血の帯は俺に向かって飛んできた。

避けてもそれは俺に対して、蛇が得物を捉えたように

巻き付いた。


「ごめんなさいね。貴方にこれ以上の力を使うのは

もったいなくて。この程度の消費なら、

死にかけの貴方から血を奪えば事足りるから」


 可哀想にと言いながら、俺はタコ殴りにされる。

前に寄ってたかって十人位に殴られたり蹴られたりした事はあったが、

あんなものとは比較にならないほど一撃が重い。

一撃目を顔の正面でまともに受けた後、気を失いそうになるも、

二撃目の腹への直撃を、少しずれつつ、くの字になりながら

受ける。ダメージは多少抑えられたが痛い事には代わりが無い。


「……いい加減イライラしてきたわ。

貴方確か引きこもりとかいう、何もせずに家に

閉じこもってた人なんでしょう?何で私の術に抵抗出来て、

尚且つ当たる寸前でダメージを

軽減させるなんて高等技術をやってのけるの?」

「さあな。だけど言えるのは俺には女神の祝福があるってことだ」

「ウザ」


 魔族はキレて先程よりも早く攻撃を繰り出して来た。

だが最初は直撃を食らったものの、目が慣れてきたのか

受けつつも直撃を減らせてきた。

痛いしダメージは受けているが、体力は回復している。

小さく細かく相手の流れに合わせて少し動くだけで良い。

姫と対峙した時のように、致命傷でなければ良いんだ。

元々戦士でもない俺が、何のダメージも無くいなせるなんて

ない。


「解ったわ。貴方本当に凄いのね。でももう終わり。

付き合いきれないわ」


 魔族はそう言うと距離を取り、

今度は人差し指に犬歯を当てて血を流す。

するとそれは宙に浮き、槍へと姿を変える。


「魔血のブラッディスピア


 今まで見た表情のどれよりも

冷たい顔と目で俺を見て、魔族はそう言った。

そして犬歯を当て血を流した指を俺に向けた。

宙に浮いた槍は俺目掛けて高速で飛んでくる。

どうする。

直撃を受ければ死ぬ。

まだ死ねない。

何もしていないのに、死んでたまるか!


 ――魔力充填完了――

 

 俺の頭の中に声が飛んでくる。

槍がまさに鼻先まで来た所で、

それを遮るものがあった。

俺の愛剣。

その姿はビルゴの魔剣を打ち破った形態に変化していた。

剣身は鍔から三つ又に分かれ、その間に光で刃を形成した剣。

魔族の放った槍は粉砕された。

防御も一級品とは凄過ぎるな黒隕剣。

 

 黒隕剣は俺の周りを飛び、血界を切り刻んで俺の手に納まる。

この時俺はかつてないほどの充実感を感じた。

黒隕剣と俺は一体となり、魔力が吸われるというよりは

互いの魔力が合わさっているように感じる。


「何なのよそれは……聞いてないわ!」


 狼狽する魔族。

聞いていないというのはどういう事だ。

黒隕剣は俺がリードルシュさんに貰うまで、

リードルシュさんの箱の奥深くで眠っていた筈だ。

形態が変わったのは今日のビルゴとの戦いの時。

この黒隕剣の事を誰かが知っていたのか。

あの絶世の美女が気まぐれで祝福を与えたこの剣を?


「驚いたよな今」

「え?」

 素っ頓狂な声を上げる魔族。

「ち、違うわよ!狼狽したのよ!」

「いやそれが似た事なんだが」

「ぐぬぬぬ」


 まるでリムンのような唸り声を上げる魔族に俺はつい

吹き出してしまった。


「わ、笑わなくても良いじゃない!」

「いやごめんごめん。ついつい可愛らしいものだから。くくくっ」


 俺は笑みが止まらず手で口を押さえた。

リムンは元気でやっているだろうか。

置いてきて正解だった。

こんな戦いに巻き込まれたら、リムンを守りながら闘うのは

不可能だろう。

さっさと片付けて帰ろう。

俺達の根城へ。


「さて、驚いた事を納得してくれたら質問に答えてくれるんだよな」

「……ぎぎぎぎぎぎ……」


 あからさまに悔しさを言葉で表す魔族。

実に子供っぽいな。

リムンと気が合いそうかもしれない。


「俺の名はコウ、お前は?」

「は?」

「いやだからお前の名前だよ。魔族としか知らないんだ」

「……アリスよ」

「なるほどね」


 異世界に相応しい名前だな。

さて、ハートの女王はどうでるかな。


「この場合俺がチェシャ猫なのかな」

「……?何の話?」

「いや何でもない。独り言だ」


 俺は黒隕剣を納めて、アリスに近付き頭を撫でる。

今度の場合ハートの女王が作ったのはパイではないだろう。

そしてそれを盗んだのは……。


「アリス……無事?」


 そこへいきなり地面からアリスと似た、

髪が長く黒いタイトな鎧に身を包んだ魔族が現れた。


「姉さま!」


 アリスは息も絶え絶えになっているその魔族に近付き、

肩を貸す。

魔族にもそういう感情があるんだなと思った。

もっと冷たいイメージがしていたから。


「さぁ案内してもらおうか。今回法廷を開いた

ハートの女王ではなく、白ならぬ黒の王の元へ」

「くっ……」

「アリス、時間が無い」


 俺はアリスを促しつつ、俺も肩を貸して首都アイルという

この童話の最後の舞台へと向かうのだった。

敢えて魔族を討伐せず、肩を貸して首都アイルを目指すコウ。

その意図するところはなんなのか!?

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