救済を求めて
ブロウド大陸から何年もたっている訳ではないのに、
とても懐かしい気持ちになる。
「懐かしさに浸っておる場合ではなかろ?……まぁそうするなと
言われてもそうなるわな。人なのだから」
それは自分が人ならざる者のような口ぶりだ。
「貴方もティアマトさんの生み出した……」
「使命を帯びていた」
「英雄を探す事、ですか?」
「うーむ、ちと違うかな」
「というと?」
「強さは勿論必要だ。肉体的な、な。だがそれだけでは足りん」
「優しさや懐深さとか器の大きさですか?」
それを聞くと三蔵法師様は笑った。
「それは人民にとって必要なものだよコウ。今この段になっては
この世を続ける為に必要な戦いになっている。だからそうではない」
誰にとって必要なものを三蔵法師様は探していたんだろうか。
「本来であれば、最初は友が良かった。だがそれは友とは成り得ぬ、
己の欲に塗れ己の物語に酔いしれ、国一つを支配するような男だった」
アイゼンリウトの王の事だろう。
「その次は良妻が良かった。だがそれは良妻に見えて共依存となり、
愛で支配しようとした」
誰の事だ……。
「その次はライバルが良かった。だがそれは役割さえ奪われただ蚊帳の外で
存在を変えられてしまった」
これは恐らくロキの事なんだろうな……。そうするとやはりあの人なのか。
それにしてもアイゼンリウトの王は異世界からの人間だし……。
「あの……」
「コウ、俺が使命を帯びて探していたのは”救済”だ」
「”救済”」
「そう。救済。先に俺が見える前にお前に言った事がある」
「捻じれた世界を解く」
「その通り。詳しく全てを話す事は俺の存在が無くなってしまうので言えない。
が、俺の言葉を忘れないでおいてくれ。勿論近くにいればヒントも出せるが、
この先そうもいかなくなるかも知らん」
「強敵ですねからね」
「強敵だろうな。相手は王手飛車取り状態だったんだから」
「それ詰んでませんか?」
「パッと見た感じではな。心理的にそこで折れる事が多い。これまでもそう。
だが今回は違う。王手飛車取りを狙って指した場所の近くに意外な”歩”が
あったわけよ。最初はただの”歩”だったはずだしリスクも少なく上手く
泳がせて希望を抱かせるには十分だった”歩”がな」
「甘く見ていた訳ですね」
「そそ。”歩”だし良いかって。自分に敵うはずもないし格下だしってな。
初プレイの相手に経験者が対戦してるようなもんだからな。ところがどっこい
この”歩”は曲者だったわけだ。気付いたら色んなもんがくっ付いて、
気付いたら”裏返って”いたんだから」
「気が付いたら背筋が凍りますね」
俺の言葉を聞き終わる前に三蔵法師様は錫杖の先を俺に向けて構える。
「それを俺は確信したいのさ。さぁあの時とは違うというところを存分に見せてくれ」
その構えを見て、俺も相棒二振りを構える。
以前は静の修行を付けてもらったが、今回はここまで歩んできた俺の
全力を見せる。ただ星力の力もあるから大丈夫なのだろうか。
「おいおい、俺に要らぬ心配はしてくれるなよ?手加減なぞすれば
口を聞いてやらんからな」
俺の表情から読み取ったのだろう、三蔵法師様にどういわれて
気を入れ直す。
「解りました。全力で行きますよ!」
「おうよ!」




