山の守護者
俺は相棒二振りを振り上げた後、地面に思い切り突き刺した。
星力の流入により圧によって剣を突き刺した部分から、バカッバクッと崩壊する音がする。
俺は少し離れる。次の瞬間にガラゴゴと崩れ、衝撃波が起こる。
一か八かに近いが、竜巻は下に冷たい空気が流れれば流れるほど
強さを増すと言った事を聞いた事がある。なので、現実的には無理でも、
力を手に入れた俺なら出来る方法でそれを変えてみた。
爆発に近い衝撃波を発生させて空気の流れを一瞬混乱させ、
更に発生したエネルギーによって一時的に上部よりも熱くする。
「そこか!」
良かったクサリクが牛の性質を失わないでいてくれて。
上空で止まっている気がある。こちらを見ている。
状況に驚き更に好奇心で止まったのだ。
俺はそこへ向かって相棒二振りをブーメランを投げるように投げつける。
勿論ゴルド大陸に来る前に身に付けた技を使う為に星力を纏わせた。
「グモォオオオオオ!」
雄叫びをあげたあと、キラキラと音が聞こえ気配も消えていった。
「見事だな聖者よ」
優しく穏やかな男の声に背筋が凍る。そして俺の左わき腹が熱を感じた。
暫くすると激痛に変わった。
「不意打ちとはご丁寧に」
「勿論だ。これは鍛錬なのだろう?ならどんな手を使ってでも君の為に
ならなければな」
「綺麗事を言っているようだが、そうしないと勝てないアンタの為じゃないのか?」
次の瞬間、沢山付けたキーホルダーが鳴るような音がした。
キン!と鉄と鉄がぶつかる様な音が俺の耳を襲う。
「この剣は意志があるのか」
「一心同体だ」
それから暫くぶつかり合う音がする。
「おいおい、そろそろ目を治してほしいんだがな」
少し間があってから
「……その方が今は面白いか。どうぞ、目を開けたまえよ。
クサリクの起こした風でここはもうパシュムの毒は無い」
優しく穏やかな声でそう答えた。しかしまぁ……
「どうだかな……アンタ胡散臭いぜ」
そう。胡散臭さが拭えない。声だけ聞いていれば
何かを害そうという気が無いような気がするが、
気はそう言っていない。俺を倒す気満々なのが伝わってくる。
「随分と自惚れてくれるじゃないか。……だがそうだな。
修行の成果が出てきたと喜ぶべきだな。なら改めて言おう。
お前如きにハンデを私が貰う必要はない。寧ろ興が殺がれる」
おっと更に強い殺気を向けてきた……これはマジだな。
俺はゆっくりと目を開ける。ぼやけていた視界が、
瞬きをするごとに焦点が合い始めた。
「こんにちは人間。良く来たね。さぁ僕にも見せておくれ。
君がこの捻じれた世界を解く事が出来るほどの技量があるのかどうかを、ね」
俺の目の前にいたのは、三蔵法師様に似た顔格好をした人物だった。
違うのは金の王冠を玩ばずにキチンと被り、端正な顎鬚を生やしている事だ。
「一つお尋ねします。悟りを開く道すがら、皆その姿になっていくのでしょうか」
「……そうさな。余計な雑念が一つ減って便利だ。何しろ髪が無いわけではない。
意図的にこうしているのだから。存外慣れると便利だぞ?」
敢えてそこから先は問わない。あの時何故自分とやりあわなかったのか。
何故山道であったのか。まさかここでやりあうことになるとは。
「さぁ見れば答えを見つけたかろうが、今は相対せよ。私はそれを楽しみに来たのだから」




