駆け抜ける雄牛
ズシン……という音が聞こえてくる。
なんとか倒せはしたようだ。それでも気は抜けない。
連戦と言われたからには来るんだろう。
前方から地面を踏み鳴らし突進してくるものがある。
さっきの恐竜とは違う。速度が段違いだ。
突っ込んでくる。
「なら!」
俺は助走を二、三歩付けた後、黒刻剣を
剣を突き立てるように持ち方を替えた後、投げつけた。
相手は速度も振動も変わらない。お構いなしってわけか。
黒刻剣は速度を増して進み、ザクッという
音がする。刺さりはしたようだ。問題は倒せたかどうか。
視界を奪われた状況で手探りではありが、ある程度の気配と音を
感じて自分の体の位置を完全ではないものの把握している。
これだけでもエライ進歩だと思うが、まだ視界は回復しない。
目が疲れなくて良いは良いし、囚われないのも良いんだろう。
実際小説を読むように頭の中で描きもしている。
星力のお陰で研ぎ澄まされているのもあってか、なんとかなっている。
で、結論からいえば全く速度も振動も衰えていない。
どうなってるんだこの生き物。
「ブモォオオオオオオオ!」
あ、俺解っちゃいました。
「て場合じゃない、かっ!」
ギリギリまで引き付けて体をずらして避ける。
必要最低限の動きだけにしないと、何せ連戦だ。
星力のバックアップがあるとはいえ、俺自身は無限ではないだろうし。
「黒刻剣!」
俺は相棒の名を叫ぶ。ヒュンヒュンと風を斬りながら、俺の方へと
向かってくる。流石相棒だけあって、俺の左手に自ら納まってくれた。
「こらぁあれしかないな」
牛といえば闘牛士。鳴き声から推測だが、ティアマトさんの配下の中で
牛と言えばクサリクと呼ばれる者がいる。これがどのくらいヤバいかっていうと、
まるで羽が生えているかのように重力を無視して移動する。ティアマト軍団の
移動の要とも言うべき雄牛だ。
音は鍾乳洞の中を縦横無尽に走り回っている。ムシュの悲鳴が度々聞こえてきて、
それに二ヤケてしまうが、それはさておきクサリクは俺を襲撃しては来ない。
走り回るのが楽しくなったというものでもないだろう。元々牛は臆病だが好奇心旺盛。
ニート脱却のためにと一時牧場勤めも考えたが、そんな甘いもんじゃないと
調べてから諦めた事がある。ので基本的な部分は間違っていないだろう。
ただしこの場合俺の鍛錬の為にここまで来てる。このままで居る事は無い。
あと、少しだけ嫌な予感がしている。
「おぉぅ……」
風が起こり始めた。俺の周りを間合いに入らないギリギリラインで、所狭しと
走り回っている。その速さから起こる風が、俺を中心に渦巻き始めた。
これは不味い……中心に居ても真空にはならないが、俺が吹き飛ばされる。
そこをクサリクに突撃されたら幾らなんでもひとたまりもないだろう。
俺が流れの中に入ってバランスを取るまで悠長に待っていてくれることもないだろう。
となると一個しか方法は無い……。ホント良い鍛錬だわ。




