混沌のただ中で
「はいはい気が済んだね。そしたら
次の対決行きましょう。問題!
バーバン」
水が人の形をしているものの頭に、
凶悪怪獣のエゲツナイ鋭利な牙が
喰い込んでいて水が漏れてるという、
実にシュールな絵からの振り。
誰も反応する訳が無い。
「誰かボケてボケて!
今ならレギュラーのチャンス!」
「はいはいはいはい!」
「はい魚人!」
「誰が魚人だ! えーと、あのー、
あれだ。あれだよ」
「何々何!」
「泳いでる場所がー、ち」
「ちがーう! 次っ!」
「オイちょっと待てー!
まだ言い終わって無いからー!」
「うるさーい!」
よーやるなぁホント。
いつまでこのノリを続けるつもりなのか。
魚人がレギュラーになれる確率なんてあるのか。
……まぁでもこのノリは嫌いじゃないけど。
「なーに笑ってんだお前は!
さ、ボケて!」
「たい焼に食われる水」
俺がそう答えると、
水はピコハンを落として突っ伏し、
魚人は天を仰いで倒れた。
「おいおい何面白い事言ってくれちゃってんだ
坊っちゃんよぉ」
すかさず立ち上がり俺に詰め寄る魚人。
え……面白いのかあれ。適当に言ったんだが。
「坊っちゃんさぁ良く考えて喋ってくださいよ
マジでさぁ。俺のレギュラーの座を
奪ってどうすんのよー」
「はいじゃあコウ君は次回からレギュラーで。
クルールは準レギュラーとして月1に格下げでーす」
「ちょちょちょっと待ってー!
馬鹿じゃないのこんな素人レギュラーとかさー。
冷静になろうぜラハムさんよぉ」
「馬鹿はお前だっつーの。
罰としてあそこでボーッとしてる3人を鍛えて
出直して。次やった時面白くなかったら
マジ首だから」
「えー!? マジで言ってるんですか?
しょうららいなぁ」
「しょうららいってなんだ」
「一々五月蠅いんだよ素人がさー。
取り敢えずあいつらバッキバキに鍛えてやるから
覚えとけよ!?」
古臭いガン付けを行った後、
茫然としてこっちを見ていたロリーナや
メデューサさん、ギトウ達の所へ
ドスドス歩いて行く魚人。
彼女達の元に辿りついた次の瞬間、
彼女らは地面に吸い込まれていった。
「これで良いのか? ムシュ」
水人は噛みついている凶悪怪獣を
軽く叩いてそう問いかけた。
ムシュっていうより怪獣クリオネラーとか
そんなんじゃないのか。
「後は頼むね。このおっさんどうにかしてくる」
「はいはい。んで例のもロールアウト出来るが」
「まだ駄目。コイツをどうにかしないと……」
どんだけこの凶悪怪獣俺の事嫌いなんだ。
めっちゃ睨んでくるし歯剥き出し。
大体ムシュってムシュフシュだよな。
キマイラの頭が毒蛇版。クリオネではないだろう。
「しかし大丈夫なのか? ここで世界最強決定戦
などして」
「さてね。僕は知らない」
「あいつらに手加減しろと言うのは無理があるだろ」
「でも此処をクリアしないと。それが条件だし」
二人は俺を余所に良く解らん話をしている。
解った事はこの後はマジの魔境って事くらいだ。
「……精々無事辿りつく為に精進する事だ」
「あいよ。あいつら頼むわ」
「随分あっさりしてるな」
「ペナルティなんだろ? それに……」
「それに?」
「あいつらそんなにヤワじゃないと思う。
特にロリーナは。それにメデューサさんも
黙って良いようににはならないだろうし。
ギトウは修行なら燃えるだろうし。
俺は今アイツを鍛えるほど強くないって
思うから任せる。アンタらに俺を害しても
しょうが無いし、仮にそうしたら万倍にして
返す」
「馬鹿は馬鹿なりに考えてはいる訳だ」
「ホントの馬鹿だからわかんないけどね
このおっさん」
「はいはいそうでちゅねー。さっさと
行きますよ?」
「は!?」
「はいはいムシュもカッカしないの。
コウ、兎に角星力をモノにしてこい。
お前の為の特別ステージだ。だが時間は
思ったよりないと考えた方が良い。
俺も出来る限りの事はするが」
「了解。また後で会おう」
「ああ。ムシュも頼むぞ」
「……はーい」
明らかに不満そうな声を上げた
マスコットは、エライ速度で神殿の
奥へと飛んで行った。
「まぁ怒るなとは言わんが、
我慢してやってくれ。俺達も全て知ってる
訳じゃない。ハッキリとは言えんが、
普通じゃないのはお前も承知してると思う。
近ければ近いほど、不安はデカイ」
「それ以上は言わなくていいよ。
俺もおっさんだから、多少は受け止めるよ」
「すまんな。その分期待してくれて良い」
「ああ。じゃあな」
恐らくもう誰にもエンディングが
見えていない。基本軸も最早無いんだろう。
本来であればブレ無いはずのものが
ぶれている。気を引き締めないと。




