目覚める者
「そうか、それが貴様の目的なのだな」
これまで黙って空に浮いていた
ロリーナから、おっさんの声が飛んできた。
振り返ると、人相が悪くなっている。
元々男勝りではあったが、顔つきが
男っぽくなっている。
「やっと出てきたのか」
「随分と余裕じゃないか」
俺とロキは見上げてそう言う。
いきなりロリーナが変わるはずが無い。
それにロキは利用するなら何でも使う
そう言っていた。
ロリーナ達の祖先で在り、ファニーを
封印した者。今は魔法使いになっていた
男だから、これ位の芸当はやってくると、
さっきの話の中で思った。
「元々貴様が気に食わなかった。それは
貴様とて知っているはずだ。今回は
ティアマト様の為に止むを得ず力を借りたが、
それは間違いであったわ」
「そうか? 寧ろ借りないで本気で向こうに
勝つつもりだったのか?」
俺は素直な疑問を口にする。
ロキの立ち位置、俺の立ち位置からして、
どう足掻いてもロキ無しでは勝ち目すら
見えない、下手をすれば蹂躙されるのが
目に見えているような戦況になったはずだ。
……そう、これは俺を鍛えつつ
俺にティアマトさんを殺させる為の
戦いだ。それを読んだからこそ、
ティアマトさんも俺の前に現れたのだ。
言わばこっちは抗う組。
そういう意味ではこいつは明らかに
補欠みたいなもんだろう。
ロキが俺の為に用意したと思う。
「良い感じだから頑張ってよ君」
ロキは煽るようにロリーナっぽい者に
手をひらひらさせながら言った。
当然青筋を立てながら口が裂けんばかりに
微笑み、俺に向かって飛んでくる
ロリーナっぽい者。
「ああそうだ。多分前に貰った目の加護とか
全部剥がれてるから気をつけて」
お茶っぱ切れてるから入れてね位の
簡単な感じで言うロキ。阿呆過ぎる。
後で殴ろうかしら。
「あ」
俺は思いっきり空振りする。
そらそうだわびっくりした。早過ぎる。
それに地面を砕いている。そんな力入れてないぞ!?
「ちなみに君は全体に強化されているから、
力を上手く使わないと潰しちゃうよ?」
「おま!」
お前と言いたかったんだが、
怒れるロリーナっぽい者が、地面を蹴って
斬りかかってきたので、途切れた。
目に力を入れて凝視するような感じで見る。
それはゆっくり歩いている位のスピードになっていた。
対処する為に動くが、俺はいつもの速さ。
うっかりロリーナっぽい者の横を行きすぎたので、
直ぐに戻って肩の辺りを突き飛ばした。
「わーすごーい明後日の方までとんでいったー」
間の抜けた声で言う俺。
「そうそう、今は武器を使わない方が賢明だよ
生かしたいなら」
「こんなのオンオフしっかりしないと
死んでしまうぞ」
「そうなんだよね。星からダイレクトに力を
送られているから、常時オンにしてたら
破壊神になれるよきっと」
実に楽しそうな声で言う。
ただ冗談じゃなくこの状態を
どうにかコントロールしないと、
破壊神になりかねない。
しかも体の強度も上がっているから、
速度が上がった所で、反動が何もない。
普通ロリーナっぽい者をあれだけ
吹き飛ばしたら、肩を痛める筈なのに、
力を入れた訳でもないから痛めても居ない。
それに髪すら強化されてて動きもしない。
元々ボサボサだけれども。
「まぁまぁ彼も張りきって出てきたんだから、
相手してあげなよちゃんと」




