もう一つ上に
俺は更に速度を上げるべく、
思考を追い出し体の動きに集中する。
向こうの方がスタミナと防御が上なようで、
弾いて押しても中々下がらない。
ただ流れに乗って自然と体は加速していく。
「ダメだね」
ロリーナがボソッとそう言った後、
光の粒子がタンポポの綿毛のように、
揺れながら俺の前に現れた。
俺は直ぐにバックステップした。
その綿毛のような粒子は、小さな爆発を
一斉に起こす。あんなもん喰らったら、
鎧の無い今は致命傷だ。
ロリーナは俺の攻撃を見て反撃してきた。
まだまだ余裕があるっていう事か。
それに魔法なのか何なのか、詠唱なしで
あんな爆発を起こせるなんて。
簡単に接近戦を挑む訳にはいかない。
「こないならこちらから」
ロリーナはゆっくりと地面から離れ
浮遊すると、まるで幽霊のように揺れながら
俺に上から斬り込んできた。
正面から背面、側面と捉えるのが
難しい攻めをしてくる。
アリスも飛んでいたが、ロリーナは
その更に上を行っている。
地を這う獲物を狩りに来る鷲のように、
攻撃してはすぐさま距離を取った。
このままだと確実に狩られる。
先ずは引きずり降ろさないと。
俺は一瞬、神の息吹を
唱えようとしたが、ロキの言葉を思い出し
止め、相棒二振りに気を通す。
「頼む!」
ロリーナに向け相棒達を放つ。
二振りは踊るようにロリーナに襲いかかる。
それを難なく捌くロリーナ。
「この程度の力なら、僕は傷つけられないよ」
余裕の頬笑みを浮かべながらそう告げられる。
苦し紛れか。……いや、それでもだ。
俺は師父の庵で初めて気を通した時の事を思い出す。
両手を相棒達の方へ向けて伸ばし、
目を閉じて集中する。体から放出している気を、
俺と相棒を結んでいる線を、更に細く強くなれと
念じながら丹田に力を入れる。
もう一つ上へ。師父と別れて少し経つ。
更に成長する為にもう一つ上に。
「こい!」
俺は左手を横へ薙いだ。黒刻剣は
俺の手の中に収まる。そして直ぐに気を
上塗りするように通した。
次に右手を横へ薙ぎ黒隕剣を手に収め、同様に気を通す。
急襲してきたロリーナを、二振りで
交差するように薙いで引かせる。
もう少しだ。今までとは違う、新たな力が定着する。
―新たな気の力を確認―
――練成承認。増幅開始――
久しぶりに相棒達の声を聞く。
その声に合わせて、俺も気合を入れる。
「新たな力、こい!」
―星力解錠―
―変換定着開始―
相棒達の言葉の後に目を開くと、
俺の周りに魔術粒子とは違う、
ダイヤモンドの輝きのような光を放つ
ものが、俺の周りに浮いている。
「これは一体……」
「良かった。やっと繋がったね。
それが恐らく人の身で辿り着く事の出来る、
最後の力と言っても過言じゃないものさ」
後ろにいるロキの声がうわずる。
どうやらコイツにとっては喜ばしいものらしい。
「唯一対抗出来る手段みたいなものだからね。
その為の鍵となったのが黒隕剣さ。
君も知っての通り、その剣だけは特別なんだよ。
君達の様に異世界から来たわけでもないけど、
僕たちですら本当に解らない所から、
この大地に降ってきたんだから」
物凄く楽しげに話しているから不安になるわ。
「君と言うハードウェアを干渉から護りつつ、
最大限の力と運と可能性を開花に導くデバイスだよ。
良いね良いね最高だよ」




