進路指導
「取り敢えずこの世界のモノと混ぜるのは、
お勧めしないな。君も解っているように、
噛み合わない事による強さはある。
ただそれは噛み合わないから強いのであって、
何かがあって噛み合えば、君も弱点属性が
出来るだけの話だ」
「何の話かな」
割り込んでくるロリーナ。
ただの御姫様ではなく、市井で優秀な義理の親に
育てられた、万能戦士だ。本人であれば。
鍔迫り合いをしているが、どう考えても
前のロリーナではない。押し負けそうになる。
なんとかギリギリ跳ね返したが、消耗が激しく
ジリ貧になるのは目に見えている。
「お勧めなのは神の息吹を
使う魔力ではなく、自分自身の魔力を
生成する事だ。ゼロから一で構成している
訳じゃないから、魔術粒子は使える。
その為に君に黒刻剣を与えたんだ」
壮絶なるネタバレである。
確かにこのラスボスくんことロキと
初めて遭ったのはエルフの里の事件だ。
あっさり撤退したのも頷ける。
恵理ともそこで初めて逢った。
「掌の上で転がされてるようで気に入らん」
「それは僕だけに言わないでくれ。
今更そんな愚痴も無いもんだ」
俺はロリーナと切り結びながら、
ロキとも会話している。力の消耗は激しいが、
ブロウド大陸での戦闘経験が生きている。
悟空さんやブロウド大陸のリューと比べれば、
ロリーナっぽいのの力はマシな方だ。
真正面から受けずに、少しずらし滑らせて
返している。
「ギトウ、見ておけよ! 剣じゃ参考に
ならんかもしれないけど!」
俺は切り結びながらもギトウノ様子も見ている。
何とか落ち着きを取り戻したと言うよりは、
ダメージで動けず、壁にもたれかかっている。
息も荒い。だが俺の声に頷いた。
「余裕だね君」
余裕でもないが、生きる為に相手を殺そうと
殺意を持って群がる中に居た経験は、物凄い貴重だ。
異世界に来た特典の能力で死ぬことは無かった。
あの気を抜けば一突きされるのが当たり前、と
言わんばかりの空気を体験した後では、
戦闘モードに入れば感覚は研ぎ澄まされる。
それは直感で相手が強くあればあるほど鋭くなる。
「僕ももう一振り使おう」
ロリーナは銀の剣を左手に握る。
全くうんざりするものを見せてくれる。
「これもお前の作戦かロキ」
「君はただ強くなれば良いだけだ。その為に
必要なら君に対する憎しみがあったりする者の
力なんて、当然のように利用する」
「あの時の俺が一番強いのか」
「そうじゃない。これは軌道修正だよ」
「お前のか」
「僕たちのさ」
ホントこいつは胡散臭さしかない。
腹を割って話したところで、その腹は他人の
腹だったなんて事を平気でやりそうだしな。
「掌で踊らされるのが嫌なのは君も同じだろ?」
警戒を解くことは無い。
相手の狙いが何処にあるにせよ。
「そろそろ君も考えておくといい。
元の場所に帰りたいのか、何をしたいのか」
……何をしたいか、ねぇ。
個人的には元の家に帰りたいとは全く思わない。
何しろ居なくても問題ない。
ただ元の俺がどうなっているのかは
知りたくもあるし、怖くもある。
そしてこっちにはファニーを始め、リムンやハクなど
俺と関わってくれた人達の後が心配だ。
例え何か終わった後消え去るしかないとしても、
そこは何とかしておきたい。
「どうやら再確認できたらしいね」
ロキの声にハッとなり前を見ると、
ロリーナを押して次の階の階段近くまで来ていた。
ロリーナは息を切らせながらも、声を出さずに
斬りかかって来る。それを俺は一太刀で斬り払う。
そして残り一振りの剣の腹で押し込む。
すんなりと下がることは無い。が、気付けば
俺はそれを角度や左右の違い、タイミングの違いは
あるものの、同じパターンを高速で繰り返し
押し込んでいた。




