囁く者
俺は気を解放して魔力を瞬時に混ぜ、
一気に襲撃してきた骸骨を斬り伏せると、
全力で走りギトウを追う。
こんな時に限って通路が長い。
ギトウが見当たらず、景色だけが流れていく。
胃が冷たくなり、小さくなったような
気がするし、心音が大きく聞こえる。
悲鳴の主が無事なのを祈るしかない。
泣きそうな気持で走り抜ける。
「君は何者なんだ!?」
その声には覚えがある。
俺の視界に入ってきたのは、
ショートカットの金髪に緑のワンピース、
白のサーコートを着て、名と同じ黄金色の剣を
持った人物。
「邪魔をするな!」
「君が邪魔なんだけどな」
ギトウの攻撃を余裕で避けた後、
腹部を蹴り上げる。ギトウは外骨格で
体の硬さは相当なものの筈だ。
それを蹴り上げるなんて。
「待てっ!」
俺は何か違和感を感じて止めに入る。
俺が知っている彼女も能力は高かった。
だが体術がここまで強いとは思っていなかった。
ギトウを追い打ちしようとしていた
黄金色の剣に、俺の黒隕剣を当てる。
手加減した訳じゃないのに、当てたこっちに
衝撃が来た。そして重い。
「あら」
まるで御機嫌ようとでも言わんばかりに、
爽やかな笑顔で俺の剣を振り払う。
「おいおい何の冗談だ?」
俺はただ事ではないと思い、黒刻剣を
地面に突き刺すと、
「神の息吹」
と唱える。悪いものが憑いているなら吹き飛ばさないと。
黒刻剣で増幅された
神の息吹は唸りを上げて
黄金色の剣の持ち主に襲いかかる。
「無駄だよ」
顔色一つ変えることなく切り払われた。
マジかよ……。俺は彼女の背に生えている、
黒い羽根を見て思う。堕ちた天使の遺伝子を持つ、
この世界生まれの異世界人レベルの可能性を秘めた人物。
「何がきっかけで目覚めたのか聞きたい所だが」
「さぁ。君も可笑しな気を放っているけれど」
彼女の赤い気の中に黒い気の粒子が回っている。
「どうやら知人かと思ったが違うらしい」
「だとしたらどうするの?」
やっとこさこっちは巧く融合させて定着させた所なのに、
あっちはベテラン選手レベルの安定さだ。
恐らく力を遺憾なく発揮できるんだろう。
俺ももう一段深く混ぜるしかない。
「多分それダメだと思うなぁ」
不意に俺の背後から嫌な声がした。
「おいそんな気軽に出て来て良いのかラスボス」
「僕は別にラスボスではないよ。恐らく君が考えるより
僕は更に先を考えているだけさ」
「それはお前だけの望みじゃないのか」
「さぁね。皆僕と同じ位置に立てばそう思うよ」
相変わらずいけすかない感満載だ。
「あれは何だ?」
「何だと思う?」
そう問われて俺は考える。
彼女はアイゼンリウトの姫であるイリアの姉妹。
堕天使と異世界人と竜と。後足りないのは神と悪魔の
因子位だと思う。それがそろえば恐らくこの世界で
最強の可能性を持つだろう。
「強い者は欲しいけど、自分の手に負えない者は
欲しくないもんだよね誰でも」
「という事はアリスもか」
「そうなるね。干渉は受けるだろう」
俺はあの時自分が実はとても感情的であり、
感傷に浸っていたのかもしれないと後悔した。
野郎はもう少しすりつぶすべきだったんだ。
「独り言だが」
「うん」
「アグニス……いやアーサーはこの世界を歪めた」
「そうだね」
「アイツは俺と同じ異世界人だ」
「言うまでも無く。君が見た通り」
「混ざらなかったな」
「混ざらなかったね」
意図してそうしたのなら、中々だ。
そしてこの世界は一体どうなっているのか。
いやどうやって作られたのか。
誰のものなのか。




