その人騎乗のプロにつき
「急に僕らみたいなのが出てきたら
驚きますよね」
解る解ると言うように頷くギトウ。
「仕方のない事です」
……あれ交代した。
「メデューサさん?」
「はい。少々姉が疲れたそうなので、
交代しました」
執事の様に背筋をピンと伸ばし、
俺に近付いてくる歩き方は、
モデルのような綺麗な歩き方である。
雰囲気が変わった彼女が近付いただけで、
リウは警戒を解いた。
「こう見えて走る動物には縁があるのです」
リウの首を擦りながら、メデューサさんは
言う。なるほど。ペガサスの御母さん
だものね。
「あ、あの!すいません!」
指されない目立ちたがり小学生のように、
ギトウは俺とメデューサさんの周りを
手を上げながらぴょんぴょんしていた。
「五月蠅いですね、ぶん殴りますよ?」
めっちゃ優しい声で言ってるが、
内容は物騒すぎる。メデューサさんの
パワーを知りたい気もするが、
ここは穏便に行こう。
「ギトウどうした」
「の、乗りたいです恐竜に!」
子供かよ。……あ、子供か。
「凄く興味津津だな」
「そりゃもう! こんなに小さな恐竜を
見たことが無いですし、人に慣れてるのも
凄いなぁと思いまして……。この方なら
乗れそうな気がして!」
確かにそうだな。
ちょっと引っかかるが、こんな恐竜を
見たら普通テンションあがるわな。
俺が微笑みながら同意する意味で頷く。
するとギトウはリウの側面に
回り込んだ。
「ちゃあっ!」
セクシーな声色に似合わない可愛らしい
声を出しながら、メデューサさんは
ギトウを拳で突いて吹き飛ばす。
「そこの蟻の人。無暗矢鱈に乗ろうとしない。
他人を背に乗せるという事は、
信頼関係があってこそ。
それを無くして乗るなど、愚の骨頂!
ましてや相手は気高き竜の一種。
思い上がりも甚だしい!
恥を知りなさい!」
わー恥を知れとか久しぶりに
聞いたわエモーい。
……いや違う意味で揺さぶられたわ。
お姉さんから何とも言えない揺らめきが
立ち上っている。やっべ騎乗オタクや!
「大体貴方、騎乗するのに何を鞍も無しに
乗ろうとしてるんですか。失礼にも程があるんじゃないですか?」
「へー馬じゃなくて恐竜用の鞍もあるんね」
「はぁ!?」
あ地雷踏んだ。
「いやいやいやいや……
ちょっとお前達座りなさいよここに!」
最後の”ここに!”はおもっきり地面砕けるほど
踏みつけていた。ガチギレじゃん。
ここから暫く地獄が続いた。
懇々と騎乗の何たるかから、姿勢やタイミングの取り方、
手綱の使い方から日頃のお手入れ&ブラッシング、
果てはコミュニケーションの実践編に至るまで、
如何に乗る前の準備と関係構築、騎手自身の日頃の鍛錬が
大事か諭された。
途中騎乗のところで、中腰でパソコンでも打ってんのか
っていう感じの動きをした時に、吹いたのは参った。
取り敢えず咳をして誤魔化したものの、
想像してみてよ。
当人真面目にやってるんだろうけど
中腰で手だけピクピクしてんの。
なんでピクピクさせたんだワザとだろあれ。
笑う以外の選択肢が無いじゃないですか。
「解りましたか?」
「ハイ!」
「Yes!ma'am!」
全力の敬礼をもって締めとした。
恐らく敬礼コンテストなるものがあったとすれば、
一位を狙えるんじゃなかろうかと思うくらいの
敬礼が出来たと自負している。
「次……笑ったら殴るぞ?」
悦に浸っている俺の肩に手を置き、
耳元でボソッと底冷えするようなひっくい声で
口だけ笑いながらそう告げられた。
今後騎乗に関してはからかったように
見られる行為は厳禁だ。
コウ、オボエタ。




