冒険者、上位魔族と出会う
頑張る冒険者少女たち、蠢動する魔族、
そして進化を遂げた黒隕剣とおっさんの前に
かつてない恐怖が降臨する!
「おいコウ、しっかりしろ!」
俺はその声に目を開ける。
どうやらまた気を失っていたらしい。
黒隕剣の新しい力を使いこなすには、
多いと言われた魔力量では1度が限度なのか。
「大丈夫です」
顔を覗き込んでいたリードルシュさんとダンディスさん、
姫に対してそう答えると上半身を起こす。
俺の前方では縄で縛られた魔族一匹とビルゴ、
そしてその脇に座るビッドの姿があった。
「取り合えずリードルシュの旦那が道具屋で買っておいた
縄に魔法を掛けて、ほどけ無くしてあるから安心して良いぜ」
ダンディスさんは俺の体を支えながら、説明してくれた。
「他の魔族たちは一掃し、付近は今のところ敵は居ないようです」
姫も俺の体を支えてくれて、そう教えてくれた。
「そっか。じゃあ早速聞こうか」
俺は二人に支えられながら起き上り、魔族とビルゴに近付く。
「で、生贄を必要としているのは誰だ?」
俺が問うと、魔族もビルゴも鼻で笑っただけで答えない。
当然と言えば当然だな。
だがこの問いには意味が無い。
宰相と俺で意見は一致している。
宰相がギリギリ政務を取れる状態で生かされているのが
解り易い答えだったからだ。
「生贄は今までどれくらい捧げたんだ」
「聞く気も無いのに聞くな」
ビルゴは鼻で笑うとそう言った。
確かにそうだな。
俺は聞く必要のない質問をしている。
「魔族、お前達は何時からこの件に係わっている?」
「フン……」
「本当は最近なんじゃないのか?と言っても姫が生まれた後位か」
「ナ、何ヲ根拠ニ!」
「そうか」
俺は興味を失う。
振り返り姫に尋ねる。
「姫、母親の死因は?」
「は、母の死因が何か関係があるのですか!?」
「解らない。で、死因は?」
「母は……私が生まれた時に死んだと……」
「辛い事を思い出させてごめんな」
「いえ、ですが質問の意図が……」
俺は答えない。
ビルゴの死者蘇生の話は、全てを嘘と断じるには
危うい気がした。
姫の母は姫を生んで死んだのは間違いないと思う。
それは姫に感じる、一般人よりも高い能力によって
誕生の衝撃に母体が耐えられなかった可能性が
考えられるからだ。
姫も俺ほどではないが、異質だ。
力技早さ、そして何よりその強烈なカリスマ性。
性格も含め稀代の人物だと思う。
だがこれは人と人から生まれたものだろうか。
そして父親として、自分よりも優れた子供が生まれ
育っていくにつれ民を惹きつけて行く姿を見て、
穏やかな気持ちでいられるものだろうか。
そして先代が存命中に、品格のある姫を見た時に、
息子よりも王の資格があると考えたらどうか。
更にそれを口にしたら。
「まぁ答えらしい答えは得られないか」
「どうする?こいつらを始末するか?」
リードルシュさんは俺の前に出て、縄で縛られた魔族と
ビルゴに向け抜刀するべく構えた。
「ヤ、ヤメテクレ!ソウダ!王ガ俺達ニ手ヲ貸セトイッタンダ!」
「召喚されたのは城の地下だな?」
「ソ、ソウダ!人一人ノ命ト引キ換エニ!」
難しい話だな。
こいつら魔族を呼びだす為に、引き換えになったのは
城の兵士か?
いや、それならばれる可能性が高いな。
さっきの流れで考えれば、怒りに我を忘れた今の王は
ひょっとすると生贄として自分の父親を捧げたのではないか?
「姫、姫のおじいさんの遺体は?姫に兄弟は?」
「あ、え、お爺様の遺体はありません。
亡くなったと聞いた時には、丁度国に疫病が流行っていたので、
遺体を火葬したと聞いています。兄弟は兄が一人おりますが」
「それ以外の兄弟や親戚は?」
「……おりません……」
「ありがとう」
俺はそう言うと空を眺める。
一国を成した一族に親戚が居ないというのは変だ。
姫に兄弟がいると言う事は、子供に制限が掛かったりはしていない。
ファニーが閉じ込められていた長い間に、
王は何度も変わっているはずで、
そうなれば少しずつでも広がっているはずだ。
後兄弟が一人というのも、姫の記憶にあるのは、だ。
「ふふ、どうやら期待を裏切らない方ですのね」
空から可愛らしい声が降ってくる。
コウモリの羽を羽ばたかせながら舞い降りてくるそれは、
黒のワンピースに身を包んだ可愛らしい少女だった。
しかしそれが纏っているのは黒い炎。
距離があるのに下がらざるを得ない威圧感を放っている。
「ごめんなさいね。少し楽しい気持ちになるとこの状態になるの。
貴方達を威圧するつもりは無かったのだけれどね」
可愛らしい声は謝罪というより、可哀想と言った感じで言う。
「それに威圧なんかしたら、これから楽しめないじゃない」
「……なるほど。これだけの魔族を召喚するには、
それ相応の対価が必要な訳だ」
「ええ、そうよ。恐らく貴方の予想は当たっている。
ご褒美を上げるわ。急いでお城へ戻った方がいいわよ。
私達の眷属が向かっているの」
「あ、兄上は!?」
姫は狼狽しつつ問う。
「うふふ。あの出来損ないがどうにか出来ると思って?
あれは魔族の狡賢い部分だけを受け継いで、
下級魔族にも劣る力しか無かった。人を率いる資格も無い。
でも魔族の血が流れているんだから、使い道があってあれも
喜んでいる事でしょうあの世で」
「魔族の血……!?何を言って」
「なんて言ったかしらコウ、貴方達の言葉で。
ノウキン?姫は少し脳みそまで筋肉になっているようだから、
学んだ方がいいわよ」
「貴様!」
姫は怒りにまかせて竜槍をその見た目は可愛らしい
魔族へ向けて素早く突く。
だがそれは寸前で止まった。
「残念。姫は割とマシなようだけど、私達より下位の
魔族が傷をつけられるわけが無いじゃない?」
そういうとその魔族の少女は竜槍の先を摘まんで、姫ごと放り投げる。
「化け物め……」
「そう?そこに居るオジサンも私と変わらないと思うけど」
俺に目を向ける。
凄まじいな。見られただけで冷や汗が止まらない。
人の本能が危険を告げている。
「さぁ貴方達、頑張って私を楽しませて頂戴。遊んでも良いと
言われているんだから、少し遊ばせてもらうわ。
万が一私を驚かせたら、何でも答えてあげるわよ」
少女はコウモリの羽と手を広げ、俺達を挑発する。
「皆、悪いけどそこの魔族とビルゴを連れて城へ行ってくれ!」
「し、しかしコウ殿!」
「ここは俺達が!」
「いや、ダメだ!城の中も危険だけど、外からの攻撃を
受けて防げる防衛機能が今あるとは思えない。
恐らくこの魔族に兵隊は吸収されているはずだから。
姫、民を想うなら皆を連れて先に!」
「流石、規格外のオジサンは聡明ね。良いわよ逃げても。
どうせ何処へ行こうとも、結局は私達の餌になる運命なんだし、
貴方達ごとき見逃してあげても良いの。だから、ね?」
その瞳は魅了する力を持っているのか。
直視されたらそれだけで理性が持って行かれそうになる。
「ふふふ。本当に素晴らしいわ。私の魅了に抗うだけのものを
持っているなんて。さ、目障りな雑魚は雑魚なりの仕事が
あるのだから早く行きなさい。舞台に上がるのは
お前たちでは力不足なのだから」
「皆早く!」
俺は叫ぶ。
その声に反応して、皆は素早く魔族とビルゴを連れて移動した。
このまま動かない状態で居たら、精神を削られる。
「オジサン優しいのね。貴方が動いたら私あの雑魚達を殺してたわ」
「だから動かなかったんじゃないか。褒めて欲しいな」
俺は鞘から出ていた黒隕剣を手に取り構える。
「ええ褒めてあげる。では楽しませてねオジサマ。
その剣なら私に届くわよ」
ファニーに初めて会った時よりも強い威圧感と
恐怖の感情が沸き上がってくる。
俺はこれを退けて城までいけるのか。
予想がつかない戦いに、俺は身を投じて行くのだった。
冒険者に訪れる試練。
コウは切り抜ける事が出来るのか!?
訪れる結末はどんなものなのか!?