二階ボス
少し下っていくと、一階と同じような
ホールに出た。少しひらけているので
眩しさを感じる。
「ヨクキタナニンゲン!」
端がボロボロとしている道着のような
ものから主張するように見えている筋肉。
丸顔に大きな鼻、短髪で尖った耳そして肌は緑。
俺が最初に戦ったゴブリンの親玉より背丈は低いが、
その分戦い抜いた、鍛え上げられた印象だ。
レベルは相当なものだろう。
何でこんな強そうなのが今出てくる必要がある?
何かサービスがあるのかもしれない。
「ここは僕が」
俺がそのサービスを期待してさっさと片付けようと
前に出るが、ギトウに腕を掴まれる。
蟻の目って案外キレイ。などと言っている場合でも無い。
「大丈夫か?」
「はい。ここまでまだ良い所無しです。
ただ村を通るだけの道具として終われません」
そんなに甘くないけどなぁ。まだ具体的な対策を
考えていないだけで、ある程度構成が見えてきたら、
ギトウのレベルアップに割きたいと思っていた。
なので今はギトウの戦闘能力ではなく観察眼みたいな
ものを見るべくほっといていた。
探索のスピードも明らかに速くなっているから、
呑みこみは早い。俺が洞窟に入った時に生まれた
かのような真新しさを感じるほどに。
「よし、任せた!」
「頑張れギトウ!」
「はい!」
ギトウは胸を張ってゴブリンの前に歩み出る。
気合十分て感じだな。負けてもいいとか、後は気にするなとか
そういう事を良いそうになったのを我慢した。
今のあの気合に水を差す事も無いし。そのまま行かせる方が
より大きな成果を望めると考えたからだ。
「……蟻ンコ何カニ用ハ無イ」
ギトウは意に介さない。腰を落として構える。
良い事良い事。まぁ俺の次に当たったドでかい山に
リベンジする為に、この位の挑発には乗らないという
心構えがあってこそだろうけど。それに俺達の策、と言えるか
微妙だけど、煽るというのが相手のペースを崩すというのを
学んだのかもしれない。
最もアイツが意図的に煽ってるとか無いから安全。
単純に自分の強さに自信があって、強い相手に倒された事が無いか
そこから更に強くなった自分に自信があるのか。
俺からしたら蟻人てだけでもびっくりだけどな。
「直グ終ワラセテヤル」
ジリジリと間合いを詰める道着ゴブリン。
ゴブリン自体人に対して敵対意識は高い方だ。
悪魔等の魔族とまではいかないまでも。
人型に対して強い方ではあると思う。
筋力の差がどうしてもあるから、普通はやられる。
ただここに普通の奴は来ない。
「ハッ……」
振り上げた拳と同時に地面を蹴って素早く間合いを詰め、
そのままギトウに振り下ろす道着ゴブリン。
モーションは大きいが、その分破壊力はありそうだ。
ただそれは大きめでスピードが劣る相手であった場合の話。
ギトウは背が道着ゴブリンより低く体も少し小さい。
スピードかパワーか。この場合選択するにしても
どちらかに重きを置き過ぎると隙になる。
「ハァッ!」
クロスカウンターのようにギトウの拳が道着ゴブリンの
右頬を捕える。クリーンヒットだ。ただし……
「ヤルナ」
後ずさりしたものの、ダウンしない道着ゴブリン。
格闘の道を歩いていたのだから、耐える部分においても
かなり高めの耐性がある。それもあって迂闊にも思える
初手を出して来たんだろう。俺だったらやらない。痛いもん。




