二階探索
そう告げた俺の声に反応するように、
地響きが始まる。出来たは出来たようだ。
「取り敢えず宝箱の中身は勘弁してやる」
そう大きな声で天井に向かい叫ぶ。
煽る煽る。闘牛祭等に見るように、
牛は元々攻撃的だ。
品種改良の結果大人しくなっただけで、
野生の牛は自分の領域に入ってきたら、
人間を襲いに来たりするというのを見た事がある。
今恐らくかかっている状態なんだと思う。
鼻息荒くいくぞいくぞーって感じだろう。
良い事だ。俺としては巧くこっちの誘導に乗せて、
絞れるだけ絞って引っ張り出すってのも、
今は有りかと思っている。
このダンジョンに関して詳しい仕様が
何一つ解っていないのが気にかかる。
これについて出来ればミノさんから引き出したい。
ダンジョンの生成に関して蟻達を使って資材を運んだとして、
それを自在に操る能力がミノさんにあるとは思えない。
やってたであろう魔法使いは倒した筈。
何がトリガーなんだ?
さっきから自在にリセットを繰り返しているのに、
二階を組み立てられる余裕は何だ……?
「どしたの?」
気がつくとエウリュとギトウが、
後ろから俺の顔を覗きこんでいた。
引っかかる事が幾つもある。
これは意図されたヒントではない。
綻び……。
「いや、何でも無い。この階に有ったら良い物を
考えてたんだ真面目に」
「この階も最初は慎重に行きますか?」
「勿論。その後リセットしてくるだろうから、
最初に位置と敵の把握をしていこう。
俺の予想だけど、まだ複雑な仕組みは無理だろう。
ただクセっていうのは誰でも出る。何か気付いたら
話そう」
「おー!」
「はい!」
俺は先頭を歩こうとしてしまったが、
ギトウが先に出る。意地があるもんなぁと思いながら
しんみりしていると、エウリュが押してくる。
変てこなパーティである。
俺の予想通り、特に大掛かりなギミックは無い。
部屋の入口に幾つか仕掛けがあり、侵入を阻んだが、
俺の魔法やギトウの拳で取り除いたりして中を捜索。
どうも端っこに宝箱置くの好きだなアイツ。
そして安牌の草だ。特にこっちに大きく有利に
ならないと踏んで適当に突っ込んでるんだろう。
ここはもう少し煽るか。
こんなテンション下げられる事も無いわ。
草は売れないし売っても元値の半額が良いところだ。
大きな魔法の代替草なら価値を測れないので、
通常の道具屋ならほぼ一である。
「あーあー、牛だから草入れてんのか鉄分足りないから
しゃぶって無いのかどっちなんだ」
話しかけるように言うと、リセット。
……はえーなおい。
「途中までの道は覚えたー」
「僕もです。ただまだ中間にも行けてないような」
「んだな。今修正のメンテやってっから待とう」
ギトウはエウリュに説明を求める為、
無言で顔を向ける。エウリュは悲しそうに首を横に振る。
「詫び石案件だわ直って無かったら」
「何個もらえるかね」
「ガチャ一回分じゃね?」
俺とエウリュは溜息を同時に吐く。
そして笑いあう。
「さ、気分を変えたところで今度は奥まで行こうか。
今通った所はパスで。恐らく中身は変わらないから」
「はい!」
俺達は再度二階攻略に取りかかる。
確認した所はパスする。暫く歩くと、少し傾斜が出来てくる。
二階ラストも近いか……。俺はギトウの右肩を一回叩き、
「次広場に出たら注意」
と告げ、斜め後ろにいるエウリュに顔を向け頷き合う。




