扉前にて
「あ、悪い……嫌な物見せちゃって」
振り返ってそう言うと、彼女は腕を組んでいた。
モジモジした感じが無くなってるってことは、交代か。
「何よ」
「いえ別に」
もう少し話をしたい気もしたけど、無理強いは良くないな。
そう考えて歩き出す。
「ちょっと、これどうすんの?」
そう後ろから声を掛けられて思い出した。
寝てるのを運びながら来たんだったわ。
「ごめんごめん」
慌てて戻ると、ギトウを担いだ。ステンノーも反対側を
担いでくれる。こいつはよ目が醒めんかな。急いでるんだけど。
「アンタが連れていくって言い出したんだから、
ちゃんと連れて行きなさい」
ビシッといわれる。
「言われなくても解ってますぅー。こう見えて金魚をコイレベルの
大きさまで育てた事がありますぅー」
と返すと、ステンノーは口を抑える。中の人に当たったのか
はたまたステンノーに俺の口調が受けたのか、または両方か。
まぁそこは触れないでおく。ただギトウの件は真面目に考えないと。
戦力にしようと思って連れてきたが、気が短いのが玉に瑕。
そうなるとステンノー後衛というのも考え直さざるを得ない。
あまり良くない考えだが、ギトウを囮に相手を釣りあげて
戦うスタイルを確立しないと。
戦闘は未だしもこれからはダンジョンを攻略するという
部分において、昆虫特有の危機回避を期待している。
ここに関してはまだ未知数だ。相手との実力差を測れないという
戦う者として致命的な点があるのが気には掛かる。
「どうやらここで安全な旅は終りっぽいな」
ご大層な門が現れた。ここから本格的なミノさん特性の
ダンジョンです、と言わんばかりの感じだ。
力で押してくるのかそれともトラップずくめなのか。
相手の都合に合わせて変えられるとはいえ、
何をしているのか知らないが、ずっと監視しているという事は
無いだろう。元引き篭りの一人としたら、割と引き篭ってる時に
ゲームだけ、テレビだけ、何かだけというのはなかった。
何をしてもずっと満たされる何てことは無いからだ。
一瞬乾きが癒える程度だ。その乾きを癒す為に、違うものを
永遠に求め続ける。正解以外の、自分に合う答えを求めて。
「大丈夫?」
ステンノーが黙り込んでいた俺の顔を覗き込む。
「ああ問題無い。ちょっと過去の事を思い出してな」
笑顔で答えると、おずおずと引き下がっていく。
……何だ? なんか変な動き方だけど……。
俺は首を傾げつつ考えてみる。
「あー、エウリュアレか」
と一人納得して後ろを見ると、頷いている。
ここでチェンジとは。何か考えがあるのかしら。
「何かねー、2人とも今顔見たくないって」
えぇ……衝撃発言じゃないですか。
俺がガックリ肩を落とすと、何故かエウリュアレが
自分の後頭部を叩いている。……何がしたいんだ?
「どした?」
「ううん、なんか色々忙しい」
4人もいると忙しいんだろうねきっと。
馬車から躍り出てきたうっかり商人的な感じの
エウリュアレなのかなぁとか考えていると、
ギトウが呻き声をあげる。
「おーい大丈夫か?」
肩を揺すっていると、
―はっ!―
という感じで解り易く起きた。そして地面に突っ伏す。
そして号泣。頭の中にダイレクトに文字を投げつけられてる
ような状況だが、慰めようも無いので泣かせておく。
きっと悔しさが成長の助けになるよ。おっさんもそうだし。




