とある竜と竜以外が嫌いな竜
「さてな。先日まで竜神の街にいたからじゃないのか?」
俺はそう告げる。嘘は言っていない。
「ふぅんそうですか。ならばよろしい」
何がよろしいのか知らないが、嫌らしい笑い方は止めた。
俺に鎌をかけたのか、それとも若干その匂いを思い出したのか。
もっともファニーの姿は知らないだろうから大丈夫だとは思うが。
「しかし貴方は普通の人間のようですが」
「そうだ」
「随分と変わり者ですねぇ。そのような化け物と一緒にいるなんて」
「……喧嘩を売りたいなら余所で頼むぞ。俺達は先を急ぐんだ」
「知ってますよ?」
……どういう事だ? ここに来る事を知っていたならティアマトさん
の使いかロキの使い。それとも……。
「ティアマト様の使いです。あの方一応戦闘の際に竜のような形態に
なる事があるので、竜族の古い神様でもあるのですよ」
「貴方も竜族?」
俺がただ単純に問いかけただけなのだが、目が変わった。
具体的に瞳孔が縦長になったのだ。
「竜族ではない貴方が一体何の為に態々介入を?」
「最初は友人の頼みで助っ人に来た。ただ今は面倒なのに絡まれてね」
「ロキですね」
今にも舌打ちしそうな顔で吐き捨てた。
どんだけ嫌われてるんだロキよ……。
「そう、私としてはそれもあって使いを引き受けたのです。
察して頂けたようですが、私は彼の事が死ぬほど嫌いでね」
察するも何も見ればわかる。というか竜族以外は基本嫌いそうだが。
プライドも高そうだし。
「まぁ好きってのはあまりいないと思うが」
「あまりというか全く居ませんよ」
大嫌いビームというものがあるなら、彼の全身から
拡散粒子砲のように放たれている。忌々しい憎々しい、
そんな言葉が雰囲気からも取れるほどだ。
「ご存じの通り、現在我らの要塞は引き篭りの魔神によって
中からも外からも行き来することが出来ません」
「のようだな。それを突破しないとならないからしんどいんだが」
「無理を言われたようで、そこは我々としても同情したいところですが、
元々アダマスの使いで来ようとしていたのですから、自業自得です」
一々癪に触るな。俺は何はともあれ構えた。
その動きに彼は殺気を込めた気を発した。
「思い上がるなよ人間如きが。本来ならティアマト様に会う事すら
まかりならんのだ。貴様との話し合いの決裂を持って大進行を仕掛ける。
これが決定事項だったというのに」
どうやらロキは防衛強化だとか何だとか言って、
この迷宮を仕込んだのだろう。ロキは明らかにこの騒動の
遅延を目的として仕掛けを幾つも用意していっている。
ホントキナ臭いわ。
「だからどうした。この状況下でそんな事を嘆いたところで
神様も助けてくれないと思うがな」
つい口から出てしまった。いつもなら脳内で納めるところだが。
ファニーの件やさっきのステンノーの件もあったり、敵意むき出しの
この雰囲気につい当てられた。
これを聞いた前の人は顎を思い切り上げて天井を見ている。
が、天井を見ているのではないようだ。わなわな体が震えている。
「人間……己の不幸を嘆くがいい。生憎我々はストレスの極致だ。
あのロキと同じ空間にいるというだけでも不快以外の何も出もない
というのに、その上貴様のような人間と更に我らの下等下僕たる
蛇の化け物が目の前にいる。今世界は私の不快な物で溢れているようだ。
ここで更にあのクソ忌々しい竜が居た日には誓って
この世界を滅ぼしつくしてくれるわ!」
……長いなオイ。己の不幸~の辺りで聞くのやめたわ。
取り合えず僕チン不機嫌なのっ! て言う事なのねオーライ。
「まさか使いが目的放棄して俺をやろうってのか?」
「……何とでもいえ。痛くないように即殺してやる」
こいつとロキとどっちが嫌な笑い方をするだろうか。
そんな事をボーッと考えていると、杖の先がこちらを向いた。
前の人物の体のまわりに小さな粒子が現れる。魔法か。
「シッ!」
俺は相棒二振りを引き抜くと、そのままその粒子を消すように
投げつける。
「無意味だ! 貫け!」
その言葉の後、粒子は俺に向かって飛んでくる。
ただ相棒達は回転するなどしてそれらを弾き飛ばす。
「どっちかな?」
「舐めるなよ小僧!」




