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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
黒き女神の迷宮

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彼女との距離

 しばらくギトウを担いで下っていたが、俺とステンノーは

無言のままだ。ステンノーもそうか解らないが、

ウリディンガルムの視線が俺達から離れた気がしない。

ずっと見られている感が拭えない。

戦いたいオーラ全開だったからなぁ。

何とかその視線が途切れたような気がしたところで

ギトウを下ろし、俺とステンノーは一息つく。


「あんなのが居るとはなぁ。あんなのが何人くらい居るんだ?

幾人も居れば竜人だって恐れるるに足りないだろうに」


 軽い調子で話していても、ステンノーは乗ってこない。

中身が入れ替わったのか?


「何とも言えないわ。居るには居る。ただそれでも竜人達の

街へは攻め込まなかった。それだけよ」


 どうも奥歯に物の挟まった言い方である。

ここまでの話の感じからして、ティアマトさんとは組んでいるとは

言いがたいようだ。となるとこの娘の役割は何だ?

何より何故神降ろしなどしているのだろうか。


「君の名前はなんて言うんだ?」


 俺がそう尋ねると、体を強張らせた。


「ステンノーよ……」


 声を似せている、というか体は一つなのだから

似せるにしても限界がある。何よりあのドSとはトーンが違う。

ウリディンガルムと会ってから入れ替わった。

どうやらこの娘の危機感恐怖感の方が、

ステンノーを押しのけて出て来た訳か。


「そうか。改めて宜しく」


 こういう場合、突っ込んで聴いたほうが良いのだろうか。

あんまり突っ込んで聞いても駄目なんだろうし。

最初に怒らせた手前ぐいぐい行くわけにも行かない。

こういう時その怒らせた事は謝罪した方が良いのだろうか。

 うーんうちの女性陣はこういう時しゃべってもまるで問題ない

タイプが多かったというか、行けたと言うか。

俺も前はこんな感じだったのだろうか。

そう思うとクスッとしてしまう。

 案の定彼女の視線は俺に注がれる。


「いやゴメン、ちょっとこの世界に来た時の事を

思い出して笑っちゃったんだ」

「……貴方も」


 と言い掛けて彼女は黙る。俺はそこに突っ込むことは

敢えてせずに、彼女と話しやすいように自分のことを少し

話そうと思った。


「この世界に来たときパジャマで森をうろうろしてたんだ。

その後村に着いたんだけど、道端に座って過ごしてた」

「す、凄いわね……」

「そうじゃないよ。もう生きるのも面倒だったし、

さっさと死んでしまいたかったのもある。人と交流なんて

面倒なだけだったし。俺元々引き篭もりだから」


 彼女を見ずに話をする。これまた懐かしい話である。


「わ、私も……」


 俺は余計な口を挟まないで彼女の次の言葉を待つ。


「私も、苦手……」

「だよなぁ。人と接するなんて絶対嫌だったし、

部屋の片隅で腐って死んでいくものだと思ってたのになぁ。

なんでここに居て今こんなことになってるのか。

正直苦笑いしかない」

「うん……」


 彼女はワンピースの腿あたりをぎゅっと掴んで頷いている。

余程向こうで嫌な目にあったのだろう。


「ただ色々あって今は死ねなくなったんだよなぁ不思議なことに」

「何故?」

「何だろう。外に出て生きれば生きるほど、色々な事に巻き込まれて、

色々な人と出逢って頼りにされてってなって」

「運が良かったんだね……」

「そうだね。こんな力を与えられて運が良かったんだよね言われてみれば。

前は力どころか声すら小さくて存在も空気みたいだったのにね」


 静寂が流れる。彼女の心を打とうなんていう

ジジくさい事は言わない。ただ一人じゃないと、似た人が居る

解ってくれる人が居るって言うのは心強いものだから。


「亜希子」

「ん?」

「私の名前……」


 彼女の表情は俯いていて見えないが、大分勇気を振り絞ってくれたのだろう。

か細いが、何とか伝えたいという強い意思を感じた。


「改めまして、俺はコウ。おっさんだけど宜しくしてくれると嬉しいよ」


 見えはしないだろうが、彼女に笑顔を向ける。

お兄さん病の賜物で笑顔が今は苦痛ではない。

 暫くして彼女がこちらをチラッ、チラッと見る。

少し慣れてくれたようだ。俺はそのまま控えめに握手を求めてみた。

難しいから握手してもらえなくても、そこからまた会話が進められる。

小ざかしいとは思うし、なんというかなんというか……。


「宜しいですねぇ青春真っ盛りって感じで」


 これまた奥の方から人をからかう様なトーンで、

そんな言葉が飛んできた。俺は彼女の前に躍り出る。


「悪いがここは今引き篭もりの交流会なんで邪魔しないでもらおうか」

「そうでしたか。珍しい会があったものですねぇ。なら私は参加する

訳にはいきませんね。何しろ私は引き篭もらせる専門なので」


 こいつ……何を企んでいる?

引き篭もらせる専門てのは何のことだ。異世界人か?


「以前、大嫌いな竜をたまたまシルヴァ大陸で見つけましてね。

感情に任せて引き篭もらせてしまいました。あの時もっと制御

出来ていれば、大嫌いな竜を嬲り殺すことも出来たでしょうに……」


 その容姿は独特だった。

黒いマントの隙間から、バレエダンサーのような青を貴重とした

煌びやかなベストが見える。スラックスは白でピチッとしたものを履き、

靴は先がとがって反り返り、右手に宝石が先に付いた杖。

垂れ目の前に丸めがね、金髪の上に柄の広いとんがり帽子を

被った男が居た。


「どうも貴方……竜の臭いがしますねぇ」


 にやぁっと嫌らしい笑いをして近付いて来る。

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