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冒険者少女たち

魔剣を砕き、黒隕剣は姿を変えた。

結末へ向けて進む物語の中で

取り残された少女たち。

「どういう事だ!」

「そうだのよ!」


 冒険者ギルドのカウンターで、ファニーとリムンは

 怒りをミレーユにぶつけていた。


「どういう事だも何も、コウは刺客に追われて出て行ったのよ」


 ミレーユは笑顔を浮かべて、そう優しく諭すように言う。


「何故我らに声を掛けてくれなかったのだ!」

「そうだのよ!」


 ファニーとリムンの怒りは収まらない。

 置いて行かれた事が納得いかないのだ。


「急だったから仕方ないわね」


 ミレーユは笑顔を崩さず、何事も無かったように

言った。


「だが我らは仲間だ!」

「そうだのよ!おかしいだのよ!」

「はいはい、ミルクでも飲んで落ち着きなさい」

「落ち着いていられるか!我らも後を追わねば!」

「うん!そうだのよ!行くだのよ!」

「待ちなさい」


 ミレーユはミルクを二人に出しつつ制止した。


「待たん!」

「だのよ!」

「貴女達はここから出る事は出来ない」


 ミレーユは笑顔から急に真顔になりそう言う。

ファニーとリムンは動こうとするも体が動かない。

もがく事数十分。


「気がすんだらミルクを飲んで落ち着きましょう」


 ミレーユはその様子を眺めてしばらくたつと、

ミルクを進めて笑顔に戻る。


「お主……何者だ」

「おかしいだのよ。アタチはお母から受け継いだ力が

あるから、束縛術なんて効かないはずだのよ」

「まぁまぁ。取り合えずミルクを飲みましょう」


 ミレーユは取り合わない。

二人は仕方なくミルクを飲む。

そして二人はそれぞれ確認した。

今は腕と口だけが動き、飲む事以外出来ない事を。


「コウを追うにしても、今の貴女達には何もできないわ」

「我が本来の姿になれば!」

「それがダメだから連れて行かなかったのよ。解らないの?」


 ミレーユは少し強めに言う。

 その言葉に二人はビクリとした。

 今まで感じた事のない威圧感をミレーユから感じる。


「だったらどうすればいい?」

「そうだのよ……おっちゃんこのままだと……」


 リムンは半泣きになり、鼻をすする。


「簡単な事よ。貴方達がコウの力になれるようにすればいいだけ」

「今の我らでは力にならんと?」

「そうよ。貴方が本来の姿に戻らざるを得なくなれば、

それは迷惑にしかならない。リムンちゃんも抵抗力が高いだけで

相手に対して何かをすると言う事が出来ない。

スライムは従えても、意思のあるものを従えられなければ

意味が無い」


 ミレーユはリムンの頭を優しく撫でながらきつい事を言う。

リムンはついに泣きだし


「酷い事を言うな!」


 とファニーは噛みつく。

しかしミレーユは笑顔を崩さない。


「現実はもっと酷いわ」


 ミレーユの言葉にファニーは押し黙り、リムンは大泣きする。


「で、貴方達はそれぞれコウの役に立つ事を覚えなければならない」

「具体的には?」

「ファニーはその状態での力の加減を学ぶ事。

リムンちゃんは抵抗力と魔力を使って結界を作る事と、

幻術を学ぶ事。これが最低条件よ」

「……そこまでか」

「ええ、黒隕剣はこれから先を見据えて姿を変えたわ。

と言う事は、今でもギリギリの状態で、

結末に辿り着くにはまだ足りない」

「何でお主がそんな事を……我も何かが近くで起こったからこそ、

リムンを叩き起こしたのだ。詳細までは解らなかったのに」

「そんな事はこの際どうでも良い事でしょ?

貴方達はコウが死んでも良いの?」

「嫌だのよぉ!」


 リムンはミレーユの手を払いのけ、涙で顔が

くしゃくしゃになりながら否定した。


「なら今すぐにでも取りかかりましょう。

残された時間はそう多くは無い」

「どうすればいいのだ」

「取り合えず二人でクエストを受けてもらう。

そして実地で習得してもらうわ。今回は私の権限で

報酬をギルドから出します。討伐はイノシシの群れ。

荷車を押して行けばその肉はこっちで買い取るから」

「……このギルドに長というかお主の父親などいるのか?」

「居るわよ。私は自然発生した訳じゃないから。

今は会う時期じゃないだけよ」

「アタチ結界とか良く分からない……」

「リムンにこれを渡しておくわ」


 そうミレーユが言うと、カウンターの下から

杖の先に丸い水晶が付いた杖と、厚い本を取りだした。


「この本を読みながら実地で試して習得して頂戴。

本来なら私自身が教えたい所なのだけど、

私は魔術に関しては素人だから」

「なら何が専門なんだ」

「そうね、敢えて言うなら戦い全般かしら」

「全般だと?」


 ファニーは訝しむ。竜である自分を縛りつけ自由を奪える。

魔術が素人の人間に出来る事なのか?と考えた。


「そう。竜を縛るのは人でも出来るわ。その代わり私は

ここから動く事は出来ないの。そういう条件付きだから

可能とも言えるわ」

「詳しくは聞くなと言う事だな」

「ええ、そう言う事よ。今後を考えれば聞かない方が

スムーズに運ぶのは保障するわ」

「コウは勝てるのか?」

「それは解らない。だからこそ黒隕剣は姿を変える事を選んだ。

元々通常の剣とは違う黒隕剣は、コウが握る度に成長をしていくのを

感じていた。引きこもりのダメ人間から、誰かの為にもがき罪を

背負う事さえ厭わない人間に変わった事を。

もし最初のままなら今回の件に首を突っ込む事も無かったでしょう。

今更に大きな事に立ち向かう決意を固め、

それを成し遂げる為に必要な形態になったのよ」

「……何もかも見透かしたような言い草だな」

「でも結末は解らないわ。勝てるかどうかもそうだし、

その後どうなるのかもね」

「我らが強くなれば助かる可能性があるのだな」

「高くなる、と言っておくわ。この戦いの結末は誰にも解らない。

一時間毎に占いの結果が変わる」

「あの国はそんな事になっているのか」

「ええ、コウを助けるには貴女達の力が必要不可欠なの。

さ、一刻も時間が惜しいわ。クエストへ行ってらっしゃい」

「ファニー早く早く!」


 リムンは本と杖を持って冒険者ギルドの入口へ素早く移動し、

ファニーを呼ぶ。


「拘束が解かれたのか」

「目的がはっきりしてるなら、貴女達も無茶をしないでしょう?」

「食えん奴だ」

「いってらっしゃい」


 ミレーユは笑顔で手を振り二人を見送る。

冒険者少女たちはクエストへと旅立った。

ファニーとリムンはコウを助ける為に

力を制御する、力を手に入れるべくクエストへと赴くのだった。

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