無頼者の名は
一旦粉砕して平らにしたらパンパン。
一旦粉砕して平らにしたらパンパン。
外観だけでもと次から次に仕上げていく。
その内不憫に思ってくれたのか、穴を掘ってくれた。
外観を無心で作り終えた後、入り口にあった壊れた
入れ物の破片で中をぺたぺた整えていく。
こうすることで強度を高めている。
本来であれば水があればバッチリなのだが、贅沢は言えない。
ただ持ってきてくれる土は粘土質の土なので、
しっかり固めれば大分強固になる。
こんなものをバンバン壊すなんて、やっぱり普通に生きる人とは違うな。
なんて事を感じてしまう。俺もここに来なければこんな力は
持つことはなかった。同じ人でもここまで凄い事はない。
天災に似ているのだろう。そこに意思があるだけやっかいだ。
そんな事を考えていると、最後のカマクラに着く。
そこは自分が貸してもらったところだ。
もう限界である……。俺は視界がぼやけ始めたので急いで
中へと入り、倒れこむ。精根尽き果てた……。
何か硬いものに当たったが、土だろう。
意識はそのまま召されていく。
――だ、大丈夫ですか?――
目を覚ましカマクラの外に出る。
女王蟻の息子が待ち構えていたようで、
俺が出てきたのを一瞬喜んだ動きと雰囲気を出したが、
直ぐに後ずさった。
起きたら顔がちょっと腫れてた。
恐らく治りかけてる感じだよねこれ。
しかも顔だけじゃなく腹とかも痛いし。
確か無傷だったはずなのに……。
少し周りを見渡すと、ぶきっちょが作ったであろう
土カマクラが幾つか見当たる。なんだあれは。美しくない。
――あの――
恐る恐る女王蟻の息子が俺の視界に入ってきた。
別に君に怒っとる訳じゃないんだかね。色々理不尽。
「で、どうした」
――お願いがありまして――
「なんだろう」
――是非とも戦いを教えて頂きたいんです――
来た来た。こいつを待ってたのよぉ! って感じだ。
実際あれだけ酷い肉体労働をしたところで、イーブンに
少し足りない位の状況だ。さっきママンを見たところ、
お目覚めだったが、特に機嫌が良くなったわけではない。
勿論修羅みたいな雰囲気は今おさまっている。
俺が遠くにいるのもあるか。
彼らの事も知りたいし交流するにはもってこいだ。
「俺で出来る範囲であれば伝えよう」
――有難うございます!――
いやぁこんなもん見たら太公望様失笑されるだろうなぁ。
子供が子供の面倒みるんかやって。ホント引き出しが無いってやぁねぇ。
「じゃあ早速だけど、君の事を教えてもらおうか」
――僕ですか。僕は女王の息子です――
「名はないのか?」
言われて彼は首を傾けて下を見て考え込んでいる。
……そう、彼ら雄の寿命は短い。名前も必要ないという事だ。
女王蟻は彼を愛していないわけではない。だが運命も知っている。
……だからこそ名を与えないのかもしれない。
例え人と同じような形態になったとしても、蟻としての運命を
超えられないという事なのか。
ここで俺が名を付けて、というのは早計だ。名もなく運命を
受け入れ消えていく時に、名の無い蟻と名のある蟻では、
生への執着等が違ってくるだろう。
また俺自身も名を付けたからにはその顛末、行く末が気になるし、
運命という道を別の方向へ曲げてみたくもなる。
ただそれは生態系を崩すことにもなりかねない。
重力を二足歩行で受け入れ、機敏に動くことすら可能になり、
更に意思疎通、思考能力と体が大きくなったことで脳の容量も
変わる。生態系のバランスやピラミッドが崩れないのも、
制限があればこそ、天敵がいればこそなのだ。
「別に悩む事無いと思うけど」
軽いなぁ神様。軽すぎるよ。
「貴方に責任を取れなんて誰も言わないわ」
「言わない事はないだろう。俺と知らなくても怨嗟は届くかもしれない」
「死ねば誰も同じよ。それこそ運命。貴方も一度はそれを受け入れたのでは
ないの?」
……そうだな。この世界に落ちてきて最初の町で魔物に襲われた時。
そしてその後捕えられた時。覚悟した事があった。
「誰も行く末は判らない。神のみぞ知るというけれど、それはもっと
大きな存在しか判らないかもしれない」
名を与えるという事は命を吹き込むに等しい。
それが戒めにもなり、縛りにもなり、幸運にもなり、祈りにもなり。
「貴方にもそうだったはず」
……人それぞれか。
――宜しければ、名を頂ければ!――
「ママンに聞いてからね」
そう言うと再度俯く。こらぁ一戦交える覚悟がいるわ。
だがそれでこそ絆になるんだよなぁ。
俺は今天に帰った師達を思う。
「ほいじゃまぁちょっとママンと話してくるから君たちはここにいなさい」
顔とかからだとか微妙に痛いが、そんな事も言ってられない。
彼の運命を変えたのも俺だ。俺がここに来た事で、ここを通るために講じた
策が、彼を目覚めさせかけている。
ロキの奴、このダンジョンで何を俺に教えようとしているんだ……。
大きな思惑を感じながら、取り合えず二人に背を向けママンのところへ
移動する。勿論足取りは重いんだけどね。




