冒険者、剣と語らう
襲い来るドラフト族最強の戦士ビルゴ。
その手には折れぬ魔剣が握られている。
その時、黒隕剣を握る手から伝わる違和感は
コウに何をもたらすのか!?
「その蘇生の儀式はアンタがやるのか?」
俺は立ちあがりながらビルゴに問う。
「そうだとしたらどうする?」
ビルゴは大剣を肩に担ぎながら俺に問い返した。
これは違うな。
「蘇生の確率は?」
「俺が蘇ったのだから問題ないだろう」
「アンタホントに死んだのか?
死にかけていただけじゃないのか?」
「……お前に語る事は無い」
「痴人の夢だな。死んだものがホイホイ蘇るなら、
命の重さなんて金より軽い。
ドラフト族ってのは脳筋だな」
俺は黒隕剣を構える。
剣から今までに感じた事のない感覚が
伝わってくる。もどかしい感じ。
「ノウキンとは何か知らんが、馬鹿にしている
事は理解したぞ」
ゴブルディスが唸りを上げて振り下ろされる。
常の剣の間合いより大きく後ろに
飛び退きかわす。衝撃も攻撃に付加されている。
「コウ!」
「皆、こいつは俺に任せて周りの魔族を頼む!
一匹位生かしておいてくれれば良い。
情報が欲しい」
「心得た」
リードルシュさんとダンディスさんは
完全に納得した訳ではない顔をしていたが、
魔族へ向かって行ってくれた。
ビッドと姫も魔族との戦闘を開始する。
「まぁ当然の人選だな。俺の魔剣はお前の剣でしか
防げまい。だが先程も言ったが、元々の強さの差は
歴然だぞ?」
「歴然というが、それは体格の問題か?」
「それと戦闘経験」
「なら戦闘経験は今積ませてもらう。体格差が
強さの差でない事を教えてやる」
「笑止」
ビルドは魔剣を立て続けに振るってくる。
黒隕剣の鼓動が強くなってきた。
何が起こっている?
何を求めているんだ俺に。
「止まるとは愚かな」
俺の頭上目掛けて魔剣が振り下ろされた。
避けられない。
――我は聖剣に有らず――
ああ。
――我は魔剣に有らず――
そうだ。
――怠惰の眠りより覚めた――
俺と同じ。
――この世でただ一振りの剣――
俺の愛剣だ。
――持つ者に聖者を求めず――
有り難い。
――持つ者に悪しき者を認めず――
だろう。
――ただ変わりたいと願い――
うん。
――ただ護りたいと願う者と共にありたい――
行こう。
――ならば我も変わろう――
共に。
――我は一振りの――
最後まで。
――汝の剣――
「我に斬れぬもの無し」
俺が口にすると、黒隕剣は光を放ち剣身を
変化させる。鍔から三つ又に分かれ、
その隙間から光が出て剣を形成する。
光の刃で出来た、黒隕剣の新しい姿。
俺が少しずつ変わってきたように、黒隕剣も
俺の手を通して変わりたがっていたのか。
何とも愛称の良さがくすぐったい程だ。
「ふん。手品の類か。だがそれでお前が有利に
なった訳ではあるまい」
「いいや終わりだ」
俺は離れた距離から黒隕剣を薙ぐ。
その太刀筋は光の弧を描き、ビルゴに向かって
飛んでいく。ビルゴはそれを剣で叩き落そうと
振り下ろしたが、魔剣は砕かれ黒い霧を
上げながら粉々になる。
「まだ終わったわけではない」
「見苦しい」
俺は一言で片づけて黒隕剣を鞘に納める。
黒隕剣は形状を鞘に収まる前に
元に戻し納まった。
「貴様ごときに!」
殴りかかって来たビルゴを避け、
拳を腹にねじ込む。
この世界に来て得たアドバンテージであり、
絶世の美女からのお墨付きの力。
ビルゴは腹を抑えながら悶絶する。
「言っただろう?体格の差が強さの
差じゃないって」
ビルゴは地面を叩き、悔しさを露わにした。
まぁ普通に俺の体格だったらこの結末は
誰もが予想しがたいものだろう。
あまりにも出来過ぎな気もするが、
元々斬れないものが無いという剣で、
この世界のどの剣よりも強いのだから
変化前に片付いてるはずだった。
しかしそれは黒隕剣の変化したい気持ちに
よって、斬れなかっただけという
オチになる。なんにしても一息吐ける。
俺は空を見上げながら、ファニーと
リムンを想う。早くこの面倒事を
終わらせて、この世界を旅したい。
三人でのんびりと。
そう遠くないであろう結末へ向けて、
俺はもう一度気合いを入れ直した。
持ち主と共に変化した剣、黒隕剣によって
魔剣は葬られた。
しかしまだ解決を見た訳ではない。
この先に待ち受ける大きな陰謀とは!?




