怠け者の共感す
岩ナマケモノの舌であろうスロープを進み、
恐らくのどちんこであろうところの天井には、大きなランタンが
ぶら下がっていた。ただしかなり高い所にあるので、
そう眩しくもない。
黒隕剣を右手で横に構えて腕を伸ばして突き出し、
左手の黒刻剣は切っ先を進行方向に
斜め四十五度、肩の高さに肘を上げて迎撃の構えを取りつつ、
右足を前にゆっくりと進む。
さっき感じた妙な違和感はなんだったのか。
敵視ではないと思うが、どうも生暖かい視線を感じた。
脱力したくなる視線。そして奥から流れてくる三月半ばの南風。
どうやら根っからの引きこもり体質を誘惑するに十分な環境は
整えられているといえよう。
が、しかしこちとら面倒なことに巻き込まれている。
このままだと何もなさぬまま、何も助けぬまま死んでいく。
それでは意味がないのだ。異世界に来た、今生きている俺には意味がある。
などと格好つけてみたものの、元々自堕落というか生きることを
半分諦めて快適に過ごしてきた人間である。
ここでゲームの山とお菓子に飲み物、寝床も整えられていたら、
以前依頼とかで溜め込んでいた金貨などを使って、作ろうとしていた屋敷の
条件に合致しているもしくは似通ったものかもしれないっ……!
そうなっていたら俺はもうっ……!
嗚呼神よ……っ!
「アッ!」
文字はアッだが実際声にならない声だった。
そらぶら下がってるモノなんで蹴れば当たりますわそらーね。
ただ勘違いしてはいけない。このぶら下がっているモノは、
決して鍛えられるモノではないのだ。それをわかっちょらん!
「いやうっさいわ怠け者。シリアスモードに入ってキリッとしたかと思えば、
ド阿呆の様な事を考えて引き篭りに同調しちゃってからに」
「いやチミねぇ。この激痛は伝わりづらいかも知らんけどもだね。
声にならない痛さなんすよ。切り傷とか打撲とか、何だったら骨折よりも、
瞬間的激痛度であるならばコレはトップ1なんすよもう!」
「ぐだぐだぐだぐだうっさいなぁ……」
俺は相棒を床に置いてのたうちまわりながら抗議していると、
低っい声でジリジリ近付いてきた。
「おいふざけんなドS! これ以上やられたら死んでまうわ!」
「死ね」
間一髪転がって位置を変え、ケツを蹴られたにとどめた。
「やめろやー」
「貴方下品なのね意外と」
おやぁ……何やら過剰な反応をしておられるようで……。
「そのニヤケ面叩き潰すわよ」
「ケケケ……ドSの正体見たり、ですねぇ? っと」
俺はすぐさま起き上がり相棒を拾い直すと、ステンノーの前に
躍り出る。振動がする。それも岩ナマケモノの振動ではない。
多くの生き物が地面を踏んでいる音だ。接敵まで恐らく一五秒程度。
左右を確認しても逃げ道隠れ場無し。
「さてさて、最初の刺客は誰かな」
接滴までカウントダウン。五、四、三、二、一。




