怠け者の入口
ダンジョンというか、岩で出来たナマケモノっぽいものの
口の中へと進む。真っ暗かと思いきや、壁には所々光っていた。
某竜を倒すゲームのファミコン版からしたら、
エライ新設設計やでほんま。これは2仕様なのかしら。
「意味解らない事いってる場合じゃないわよ。解ってる通り
こいつただのダンジョンじゃないの。中の刺激は元より、
外からの刺激にも反応するから」
本気で世界が滅ぶまで引き籠るつもりなんだな……。
本気度が伝わる仕様だぜ。どう転んでも自分にとって有利な防衛機構。
パターンが通用しないランダムマップ。
が、これはゲームでは無い。逃げようのないマップなら、こっちから
変更させる事も可能という事だ。
「一つ聞きたいんだが」
「何今更遠慮してるの? さっきまで悪態ついてた人間とは
思えないんだけど」
根に持たれておるな。
「ホントすいませーん。ちょっとぉ?ドキドキしちゃってぇ?
お姉さん美人だしぃ?」
「うっぜ」
シャラーンに対抗してチャラッと言ってみたら
喰い気味でカットされる。
「和やかなムードを作ろうと思ったんだけど」
「すっごいイラっとしたわ」
「ゴメン。このダンジョン、ミノさんは滅ぶまで引き籠ろうとして
作ったんだろうけど、ティアマトさんはそうじゃないよな?
後ステンノー達も」
「それはそうよ。完全引き籠り仕様なんて守る側も出られない
って事だからね? ひょっとするとティアマト
泣いてるかもしれないわよ?」
苦虫を噛み潰したような顔をしてらっしゃる。
ステンノーがこんな顔するなんてよっぽどなんだな……。
骨が折れそうだなぁ。
「っと、ステンノー俺の後ろに移動してもらえるか?」
「どうしたの?」
「何か来る。周囲を警戒してくれ」
「……解ったわ。そしたらその重そうな抱えている物、
この袋に全部入れちゃって」
ステンノーはワンピースのどこかから、小さい緑色の生物の皮で
出来たような革袋を取り出して俺に手渡してきた。
「これは?」
「ティラーノの皮で私が編んだ亜空間袋よ」
「亜空間を取り込めるなんて、凄いなぁ」
「でしょ。一応神界にしか居ない生き物で、偶々ちょっと持ってたから
ダンジョンに降ろされた時に暇だったから袋にしてみたの」
「俺の為に編んでくれてたの?」
「馬鹿じゃないの? 私自身の戦闘力は無いからね。
この子の石化結界の省エネも兼ねて、亜空間袋の中に
邪魔なのを突っ込んで行けば良いかなぁって」
ステンノーが石化結界の中で、自分より背の高い竜人を
えっちらほっちら苦心して結局袋にしまえなくて見なかった事にする、
まで想像できて少し吹く。が、咄嗟に肘の内側で口を隠した。
可愛いと言うか面白いと言うか。
「……アンタを今詰めたろか?」
「いえ、すんません……」
心をまたしても読まれる。
そして無言で突き出された袋の中に、
俺の抱えたり掛けたりしていた物を突っ込んで行く。
最初からこれで良いじゃないかと思ったが、
俺がダンジョンを本当に攻略する気があるのかどうか、
心配な面もあったんだろう。一定の信頼は得れた訳だ。
「ホンじゃ荷物版宜しく」
俺は入れ終わると相棒二振りを引き抜く。
このダンジョンの敵が一階部分でどれ位の強さなのか。
いざとなれば一旦退却も視野に入れて構えつつ、
ゆっくりじりじりと進んで行く。




