灰色の隙間
「はい!これー。はい!これー。はい!これー」
昔あったファミコンのゲームのように、先頭を歩く猿……もとい女神が
放り投げてくる果実や水が入った袋をキャッチして、肩に掛けたり置いたり
抱えたりしながら歩く。あれは正面でちくわだったか。
しかも腹立たしいのはまるで見てない癖に、俺の体の芯のラインからズレず
ほぼ胸元に投げてくる事だ。ちなみに水が入った袋、そして水を何処で汲んでるのか
はヤボなので聞かない。そしてなるべく飲まない事にしようと心に誓う。怖すぎるわ。
世界は相変わらず灰色だ。こんな世界が彼女の望みなのだろうか。
全ての者が息をしていない裏側の世界。傷つける事も出来ないかもしれないが、
傷つけられる事も無いからだろう。閉ざされた世界で生きる事。
俺も似た世界で生きていた気がする。彼女より、興味がある物があっただけ。
それ以外は同じ。今現在、この異世界に来て、数々の困難に打ち勝てた。
恐らくそれは一人じゃない事も大きかったが、それにプラスして信じられる人が
側に出来た事が一番大きかった。
ホント良く生きてこれてるよなぁ。異世界って事で身体能力がアップしていたのも
生存率を挙げてくれたと思うよ。現実世界でも、体力が大事だって見たがそんな気力は出なかった。
ここに来て死が近くなった事で信じられないほど動いている。
筋肉痛どころか筋が逝ってるんじゃないかと思う程のものもあったかもしれない。
それでも知らずに乗り越えてここまで来た。
現実世界でも鍛えておけばよかった。何だか後悔の念が生まれてくる。
彼女もそんな気持ちになれると良いなぁ。
俺はステンノーが投げる物を受け取りながらそう思った。
このちっこいけど横暴で生きる事を楽しんでそうなステンノー達も、
いつの間にか邪神になっていたんだよな。現実の世界が神話の世界を侵食した。
彼女たちは何も変わらないのに、現実世界というか人間の世界が変わっただけで、
全く別の側に立つ事になったんだ。
其れに対して怒りだとか憎しみだとかはないのだろうか。
あるからこそドSなのかもしらんけど。
「別にドSだとかなんだとか考えた事は無いわ。ただ誰かが困るのが楽しいだけ。それを試練捉える
か、ただの愉悦と捉えるか。それは人其々。人の認識を変えるのは、権力が一番よ。そうしたいなら
貴方も王様になりなさいな。神になるよりその方がずっと解り易いわよ?」
心の中を読まれたようだが、叱られるどころか諭されてしまった。
こういう所が神様なんだろうな。実のところ懐深い。試練か愉悦か解らないが、
彼女らしい屈折した愛もあるのだろう。
「ちなみに私、黙っている貴方も嫌いじゃなさそうよ」
そう言って投げる手を止めて振りかえる。
どういう意味なのか。生憎鑑賞されるような見目麗しい美おっさんではないので、
石像にした所で需要は一切ないと思うが。
「何を美しいと感じるかもまた人、いえ、その者其々よ。見た目がどうとかっていうのも大事だけれど、
味が美味しい物は私からしたら皆グロテスクよ」
食べ物と一緒にされるのも複雑だが。
「さ、着いたわよ」
色々と含みを残しつつ、当初の予定である洞窟の入り口に着いた。
何度見ても不気味だ。これ自体に戦闘力がありそうだし、何より移動式何じゃねーのかと思う。
この要塞で何をしようというのか。
「さてね。中の人がやる気なのか、何をしようとしているのか問う為にはそこまで行かなければね」
「そうだな。さっさと行きますかね」
「貴方とこの娘は通じる所があるようだけれど、滅ぶまで引き籠ると決めた神に近い化け物の全力で
作った洞窟は凄まじいわよ。何せトイレに行く事すら面倒がって、口にするのもオゾマシイ機構を作
り挙げる位のモノグサが作ったんだから」
「気持ちは解るし例えが解り過ぎて攻略したくない」
ホント解るわ―。自分に技術と発想と気力と意気込みと金か材料があれば、同じ事をしたかも
しれない。自給自足も出来てトイレも少し移動するだけで下水まで流れる機構があれば、
マジ滅ぶまで引き籠るわ。
「こら、同調してないで行くわよ」
見透かされてケツをけり上げられた。
俺たちは早速ダンジョン攻略に取り掛かる。




